牧村伝説

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「オレさあ、サキがこの高校いるってわかってから、牧ノ頭(まこのこべ)神社にすっ飛んで行って恋愛成就のお守りを買ったんだ。一番高いヤツ。いや、『買った』なんて言っちゃいけないな。『授かった』って言わないとね。編笠より高額の投資をしたんだぜ」 ジュンくんは胸を張って手のひらでパンと叩いた。お母さまが、「それでこそ牧村の息子」とでも言うように大袈裟にうなずく。 「それを制服の内ポケットに入れて毎日毎日桜坂をぶらついていたんだ。『サキ、早く来い、早く来い』って念じながらね」 「虎視眈々と獲物を狙っていたんじゃないの? 舌なめずりしながら?」  嫌味を言ったら、ジュンくんに髪の毛をくしゃくしゃにされた。ぼさぼさの頭を指差して愛理がケラケラ笑った。 「でさあ、サキはどうだったの?」愛理が身を乗り出してきた。「5か月間放っておかれたんでしょ。『結婚しよう』って言われてから。その間どういう心情を辿って来たのかなと思って‥‥‥」  思い返せば、不思議な5か月間だった。「結婚しよう」と言われ、「うん」と承諾してしまい、そのあとずっとジュンくんには会えなかったのに、なぜか愛は強まっていったのだった。 「私もお母さまと同じなんです。どうして電話もしてくれないのかな。同じ校舎にいるのにどうして会いに来てくれないのかな。愛理さんとつきあっているって噂まであって、とても不安になったときもありました。とても寂しくて‥‥‥、捨てられちゃったのかなって、落ち込むこともあって‥‥‥。私って、生まれてすぐ母親に捨てられたんです。好きな人ができても捨てられ‥‥‥、私って捨てられ続ける人生なのかなって‥‥‥」
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