コンビニでバイト

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 うなってしまった。  お姉さんの視線が冷え冷えしていたのと語調が鋭かったのが原因かもしれない。が、それ以上に大きかったのは、もう彼には会えないかもしれないという思いだった。胸はときめいたりはしないけど、不感症呼ばわりされた屈辱もまだ残っているけど、会えないと思うとやっぱり寂しい。と、同時に、何でこんなにザル王子に会いたがっているのだろうと、不思議がっているもう一人の自分もいる。 「そういう『世界』に私たちは住んでいるのよ。親に愛されて裕福に暮らしている人たちは自分のやりたいことに精を出す。そんな人たちが頂点にいて、私たちのように親のない子や親と住めない子はずっとずっと裾野。やりたいことなんてできやしない。将来のために汗水流してアルバイト。荒波に削られ浸食されていくのも裾野にいる私たちからよ。太陽のように暖かい親の愛を受け、広くて真っ青な大空を自由に飛び回れる人たちは、私たちの存在なんて知らない。それが『世界の構造』なの。私たちがどれだけ努力しても足掻いても変えることのできないものなの。だから……」  諦めなさい、とは言わなかったが、私をまっすぐ見つめるお姉さんの目はそう語っていた。  知っている、私は。お姉さんがこれまでどれほど多くのことを諦めてきたかを。  中学校のときから成績優秀だったから、県立湖北高校も入れたはずだ。卒業生の大半が有名大学に進学する秀才高校だ。しかしながら湖南高校を選んだ。進学と就職が半々の高校を。お姉さんはすでに中学卒業前に、大きな断念をしたことになる。  自分は親もいないし、援助してくれる人もいない。なら、まず就職をしよう。就職希望者の多い高校へ行こう。もし真剣に学びたいことができたら、その時大学へ行くなり専門学校へ行くなりしたらいい。まだ中学生だった彼女はそう決断したのだった。
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