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背中から肩甲骨、肩から首筋、二の腕へと粘り気のあるオイルが垂らされてゆく。高い位置から垂らされるそれは、まるで打楽器のように肌を打ち、心地よい波動が躰の奥の方まで広がって来るのだった。
「……うっ……」
微電流にも似た怪しげな波動は、すでに私のくちびるから微かな喘ぎ声を引き出していた。
「じゃ、バストアップから始めるわね」
「はい、お願いしま……っ」
不整脈のような呼吸の揺れが、最後の「す」を言わせなかった。
バストアップというからには胸を揉まれるのかと思っていたら、うつ伏せのままだった。背中の余っている脂肪を小鳥についばまれる様に、何度も何度もつままれた。つままれては均され、つままれてはまた均されの連続だった。抓られるような痛みを感じる部分もあったけど全般的にはとても気持ちいい。皮下の淀みが肋骨に沿って腋の下へ、そして乳房の方へ流れていく感じがした。川の緩い流れにゆたゆた、ゆたゆたと流されていくような心地よさは、実際に味わってみなければわからないだろう。柔らかな日光に背中が温められるような安心感。野鳥のさえずりさえ聞こえてきそうだ。
左右の腋の下から手が忍び込んできた。腋のくぼみと乳房の裾野を心地よい圧力が滑らかに往復する。
「ん……、あ……」
渓谷を住みかとする小動物の鳴き声かと思った。それが自分の声だとわかったとき、ほんの一瞬羞恥心が弾け、キュッとくちびるを結んだが、それもじきに緩んで、今もだらしなく半開きになっている。
「じゃ、今度は足の裏から少しずつほぐしていきますね。躰の一部分に集中している性感帯を体全体に広げていきます……」
お母さまの発音する「性感帯」という言葉が耳道を怪しく撫でながら躰に溶け込んでゆく。この方がジュンくんのお母さまなのだと思うと、軽い目前さえ感じる。
「声を出してもいいですよ。腰が自然にピクピクしちゃうかもしれませんが、皆さんそうなりますから、恥ずかしがらなくてもいいです。じゃ、始めます‥‥‥」
クライアントに対するように敬語だった。
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