コンビニでバイト

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「いやです!」  私はアヒルの口をさらにアヒルにして、アヒル度200%ぐらいにして首を横に振る。昨日ボランティアの美容師さんに切ってもらったボブヘアがぼさぼさになる。 「諦めたくないの! 私はお姉さんのように聞き分け良くないから、やりたいこととか会いたい人に固執しちゃうの。『初恋』なんかじゃないと思うよ。胸キュンもない。『王子様』でもないかもしれない。でも、もう一度会いたいの! お友達になりたいだけなのに、『世界の構造』がそうなっているからって諦めるのはイヤ!」  王子様への恋心なんかじゃない。これは「世界」への反抗だった。未熟な私がそんな啖呵を切れるのは今のうちだろう。わかっているよ! 現実はお姉さんの方が数倍よく知っている。わかってるんだって、そんなこと!  彼女はもう三年生だから来年には施設から自立しなければならない。職場はきっと学校が優先的にいいところを紹介してくれるだろう。寮付きの職場。だが、彼女の内心はどれだけ切実だろうか。希望と諦めのせめぎ合い。それが彼女の「世界」なんだ。みなしごの「世界」。足枷をはめられ、やりたいこともできずにいるのだ。    でも私は思う。それに屈することが果たして「賢明」なのだろうか、と。  私には──できないよ。  やりたいことをやりたい。初恋じゃなくても会いたい人に会いたい。そのうち恋が芽生えたら、好きだという気持ちは伝えたい。「不感症」なら、好きな人のために一生懸命なおしたい。したいことはしたい。好きなものは好き。だってしょうがないでしょ? そういう性格に生まれちゃったんだもん。性格からは逃れられない。  性格は運命! 運命には従うしかない。性格を抑圧しようものなら人の破滅なのだ!  顔じゅうが熱くなってきた。 「ほらほら……。またサキの孤独な闘争が始まった‥‥‥」  お姉さんが人差し指で涙をすくいあげてくれた。
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