マラソン大会

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マラソン大会

 快晴に恵まれた。  はあ、はあ、と息を弾ませながら一月の青空を見上げると、眼底がずきずきする。どんより沈んでることの多い湖も今日ばかりは日本晴れを映して真っ青な光を放っている。こんな日はジュンくんと二人きりでレイクサイドを散歩したらどれだけ心が洗われるかしれない。    なのに──、  今日は年に一度の最悪の日。校内マラソン大会。こんなのが三学期のメインイベントなんて信じられない。イベントと言えば、一学期は球技大会、二学期は体育祭に文化祭。みんな楽しい行事なのに三学期だけはなぜ苦痛のマラソン大会?  男子は10キロ、女子は4キロ。市立競技場からスタートして、なだらかな丘を下り、湖畔の国道を走る。歩道はよく整備され、自転車がすれ違えるほど幅がある。もともと交通量の多くない道だから、前の走者を追い抜くときは車道にはみ出てスピードを上げることも可能だ。「カバ岩」と呼ばれる、大きなカバが大きく口を開いた姿の岩をぐるっと廻って、再びなだらかな丘を登っていくとゴールだ。それは女子のコースで、男子は「カバ岩」を通り過ぎずーっと向こうまで行き、折り返して来なければならない。  まず男子が2年生、1年生の順で20分間隔でスタート。その後女子がやはり学年ごとにスタートする。3年生は大学受験する生徒もいるから参加はしない。  この日が嫌いだった。この日さえなければ高校1年生の学園生活がどれほど楽しい思い出となっていたことだろう。  この一年間、勉強も一生懸命やった。バイトも一日も休まなかった。文化祭の出し物の「幽霊カフェ」も率先して幽霊メイド役をやった。ドン・キホーテで買ってきた白装束を体操服の上に着たら、男子から海老茶色の丸首が見えるのは幽霊らしくないとの指摘を受け、カップ付きキャミソールを下に着た。白装束の襟がゆるみ、胸の谷間が見えそうだとのうわさが学校中に広まった。そのためか、廊下には長蛇の列ができるほどの盛況ぶりで、とくに男子たちには評判がよく、11HRは「()りつかれたいで賞」という特別賞までもらったのだった。がんばっただけ、そして、恥ずかしさを忍んだだけ結果が出たから楽しかった。  でも、マラソン大会だけは別だ。  決してわたしは運動音痴ではないと思う。体育の時間、器械体操だって、水泳だって、バスケットボールだって、ドッジボールだって、それなりにできたのだ。背が小さくても、一生懸命やれば人並みにできる。そんな自信感を培った一年だった。
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