マラソン大会

7/9
前へ
/266ページ
次へ
「うん。ほら……、今日の下着も紐で……、それがぁ……走っているうちに……」  ほどけちゃったのだろう。それを直すために杉林奥深く入って行き、人目のつかない所で結び直した。それに意外と手こずった。せっかく結び直したのが二度、三度と解け、そのたびに茂みに隠れ、ズボンを降ろして結びなおす。きっとそうに決まっている。しかし、男の人にほどかれることを前提に作られた下着をどうしてマラソン大会の日につけてくるのだろう。その軽率さが信じられない。──というか、そういうハプニングを期待し、自分をわざと境地に陥れ楽しんでいるのかもしれない。  その時だった。 「おーい! サキー!」  ジュンくんだった。向こうから手を振りながら走って来る。すでにゴールインを果たし、私を迎えに来てくれたんだ。嬉しい!  その後ろから木坂君も走って来る。あの日、1年生の野球部全員の前で木坂君は私に告白したのだった。そんな彼は今はとてもジュンくんと仲がいい。私とジュンくんが学校の公認カップルになってからのことだ。男の子って不思議だ。だって、好きな女の子を取られたなら、妬みあったり憎み合ったりしないのだろうか。女の子みたいに。ジュンくんと木坂君はクラスが違う。部活も違うのに、どうして「私」という共通項があるだけでこんなに仲良くなれるのだろう。 「途中で倒れちゃったんじゃないかと思って心配してたんだ。さあ、もう順位は関係ない。オレにおぶさって」  ジュンくんが私の前にしゃがんで背中を差し出した。私は彼の皮膚の色が透けて見える背中に上半身を預ける。正直もうスタミナの限界だったし、足の裏も痛かったから。  
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加