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いいなあ、とほっこり思った。意外とこの二人合うかも知れない。そう言えば渡辺君、背のちっちゃな女の子が好きだって言ってたっけ。
私はジュンくんに、真純は木坂君に、このみちゃんは渡辺君におぶわれて前進。運動場の入り口でもたついていた佐藤君と美丘ペアも合流した。私たち4組は薄暗いゲートに入って行く。20メートル前方に銀色の日光を浴びたトラックが見える。ゲートををくぐり抜けとあふれんばかりの光が私たちの目を射る。同時に市民運動場に足を踏み入れた私たちは一人として例外なく、まぶしさに目を細めた。
やっぱり私たちが一番最後のようだ。100メートル先にゴールがある。ウレタントラックの路肩では、男子生徒たちが戦国幟やコンビニの真っ赤な商業用幟を振り回している。パタパタと風になびく乾いた音さえ聞こえそうだ。そのカラフルでアナーキーな演出にめまいさえも感じてしまう。これがマラソン大会のゴールなのだと、私たちの高校の生徒でなかったらいったい誰が想像できるだろうか。
みんながトラックの外で手を振っている。女子たちが両手でメガホンを作り何やら声を合わせて叫んでいる。チアガールたちが真っ白なミニスカートから健康そうに伸びた脚を振り上げ、レモン色のポンポンを振り回している。
どこのクラスだろうか。文化祭で着ていた紅白の市松模様のハッピを羽織っている集団がある。体育祭の時に使った畳サイズの巨大団扇を振り回している一団もある。なんか、市民運動場全体がお祭りに湧いているようだった。
ゴールの脇で心配そうに時計を覗き込んでいた体操服姿の担任も、私たちに気づくと「もう少しだぁ! がんばれぇ!」大きく手を振った。
「よし、オレたちも盛り上げるか!」
ジュンくんが顔をキラキラ輝かせてみんなに振り向くと、木阪君と渡辺君はずる賢そうな笑顔を顔面いっぱいに広げて、
「いっちょ、やったるか!」
「うっしゃぁあ、行くぞぉ―!」
と野太い声で呼応する。気の合う三人であらかじめ何かを申し合わしていたようだ。真純をおぶった佐藤君だけがぽかんと口を開けて、「え、何だよ」と表情を固くしている。
「な、何する気?」
不安に駆られた私は、ジュンくんの背中で尋ねるが、彼は
「キミたち女子はこの瞬間、オレたちの所有物だ。どんなに恥ずかしかろうが文句を言うな! とにかくオレたちを信じてしがみついてろ! いいか!」
すごい気迫で念を押され、私もこのみちゃんも真純も美丘も馬上でついつい「うん」とうなずいてしまった。
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