王子さま探し

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 私たちの教室は昇降口入ってすぐ右。11HR(ホームルーム)。1年生の1組という意味。ちなみに朝子姉さんは35HRだ。  教室に入ると、宮田このみさんが窓辺の自席で文庫本を読んでいた。朝日を受けツヤツヤと輝く漆黒の髪が肩のすぐ上まで伸びている。 「へえー、いつもこんなに早いんだ」  教室に入るなり、机の上にカバンを置き、彼女に近寄って行く。あまり口をきいたことのない子だけど、教室に自分一人でないのが嬉しい。自然と笑みがこぼれる。 「う、うん」  見られたくない姿を見られたとでも言うように、宮田さんはおずおずとうなずく。生まれたての子犬みたいだと思った。自分を守るすべもまだ知らない、不安げで小さな小さな存在。(それがとんでもない誤解だったということは、明日に明らかになる。女の本性はスカートをまくり上げて見るまでわからないのだ!) 「ねえ、一緒に運動部見学しに行かない?」 「う、運動部?」  宮田さんは戸惑ったように、長い前髪の下で小さな目をぱちくりさせた。はは……、指先が震えている。かわいい‥‥‥。この瞬間、私は宮田このみさんに今まで感じたことのない愛着を感じてしまった。  ハハハ……。この子「宮田さん」じゃなくて「このみちゃん」だ。うん、そうそう。「このみちゃん」って呼ぼう。ちっちゃくてコロコロした真っ赤な「木の実」。  なかなか返事が返って来ないから、ひょっとして私は彼女に悪いことしているのかなと思ってあきらめかけた時、「いいよ」と言って彼女は本をパタン閉じた。あたかも何か大きな決心をしたかのように。  このみちゃんは閉じた本をカバンにおさめる。誰にも見られてはならない秘密を隠すように。(「ように」じゃなくて、本当に秘密だったということも後でわかるようになる。)席を立つとスカートが短い。階段の下からのぞいたらパンツが見えちゃうくらい。  この子はこんなにおとなしい性格なのに、こんなに文学少女なのに、スカートだけはどうしてこんなに短いのかな? いつも不思議に思っていた。でも「宮田さん」じゃなくて、「木の実ちゃん」なんだと思うと、なんとなくうなずけてしまうのが不思議だ。きっと、スカートの中もちっちゃくて丸い、ころころとした「木の実」なんだ。それをみんなに気づいてほしくてスカートを短くしているんだろう。──そんな奇妙な考えが突如として私の心に浮かんだのだった。
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