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櫓立ちレース
うなずいた次の瞬間、惑星の運行法則に忠実に従っていた地球が気まぐれを起こした。突然自転速度を上げたような感覚と言おうか、あるいは、ほんの一瞬だけ逆回転をして、立っていた人間が地べたに振り落とされた感覚とでも言おうか。
そんな稀有な感覚に見舞われたのは私だけではない。男子におぶわれていた4人の女子がすべて何かしらの重力異常のようなものを感じた。立ちくらみのような生理現象に「あっ」と声を漏らし、男子の躰にぎゅっと縋りついたのだった。
「あら?」
気がつくと、真正面にジュンくんの顔があった。私は彼の躰に真正面からしがみついていた。両腕でひしっと彼の首を抱きしめ、両脚を彼の腰に絡めて。おんぶの体勢から彼の体軸を中心に180度の回転した結果だった。
「え? これ、ちょっと……」
そう。ヤバい体勢だ。
いくら性の経験の乏しい私であってもわかる。──この体勢を公衆の面前にさらすことは公序良俗に反する。特に高等学校という教育の現場では忌避されるべきことだ。
「これって駅弁じゃん!」
真純が甲高い叫び声をあげた。驚愕と嫌悪をごちゃ混ぜにしたような、そこに本能から湧き上がる歓喜を溶かし込んだ声を。ウレタントラックの両サイドからは、幟を振り回す生徒たちの冷やかしの歓声や口笛が飛び交っている。
「イヤだ! 降ろして、降ろして!」
狂乱したように木坂君の胸をポカポカ殴っている真純。だが内股から筋肉の筋が浮き上がった太い腕を通され、がっしりお尻を掴まれているため、腰に回された両脚をほどくことができない。
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