櫓立ちレース

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 私たちを制裁しようとした担任の大原は仁王立ちになり、すごい形相で群衆を睨みつけていた。やがて、くるりを方向を変えると、肩を怒らせ応援団長の方へズカズカと歩んで行く。すると、どこからともなく飛んで来た缶コーラがカツーンと彼の額に当たった。真っ青に澄みわたった晴天に褐色の炭酸水がシュパーッと弾ける。同時に額からまっ赤な鮮血も派手に噴きあがる。 「たーまやー!」 「かーぎやー!」  一教員の不幸が生徒たちには夏の花火大会にも勝る娯楽と化した。 「畜生!」と一言吐きつけた大原は腰に引っ掛けていたジジイタオルで額を押さえ、ばつが悪そうにどこかへ引っ込んでいった。  応援団長の全身を使った指揮がますますスピードを上げる。熊沢の長髪が振り乱れる‥‥‥。 「えっ! ちょっと待ってよ! 熊沢さんって‥‥‥」  髪、長かったっけ? 湖南高校の応援団長って昭和リーゼントの熊沢晴彦じゃなかったっけ?  髪が長い。銀縁のメガネ。真っ赤なルージュ‥‥‥。 「フ、フミカ?」  あれって、フミカじゃない⁈ まっ白な白衣に包まれていたフミカがいつの間にか真っ黒な学ラン⁈ いつの間にか応援団長に⁈  カップルたちが手に手を取りグラウンドのまん中に走り出てくる。みんなの前で抱き合い、キスしあう。駅弁体位になる男女もいる。芝生の上に倒れ込み重なり合うカップルもいる。 パッパラパッパー バーボーバー! 「えじゃえかぁ、じゃねえ!」  ピーヒャラピーヒャラ パッパラパッパー!  私とジュンくんも正常位から対面座位になり、熱く抱き合いキスを重ねた。 「ええじゃねえか?」と遠慮がちなジュンくん。 「ええじゃねえか!」と自信満々の私。 「ええじゃねえか?」と、ジャージの上からブラのホックをつまみ上げるジュンくん。 「ええじゃなえか!」と緩んだブラの下に彼の手を誘い込む私。 パッパラパッパー バーボーバー! 「えじゃえかぁ、じゃねえ!」   パッパラパッパー! ダンダンダーン!  ふと横を見ると、このみちゃんも渡辺君の首に腕を絡めくちびるを重ねている。 「ううーん……、ええじゃ‥‥‥ねえか、渡辺君‥‥‥」 「あったりめえだ。いいじゃねえか! 宮田さん!」 「いい! いい! とってもいい!」  渡辺君の手がこのみちゃんのジャージズボンの中を訪問し、くねくねと挨拶をしている。 「えじゃえかぁ、じゃねえ!」  ピーポーパープー! パッパカパッパカ!   
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