櫓立ちレース

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 男には屈したことのない真純でさえ木坂君と見つめ合い、いい雰囲気になっているではないか。 「ええじゃねえか‥‥‥」下手(したて)に出た木坂君。 「ちょ、ちょっと、考えさせてよ‥‥‥」プライドがどうしても邪魔する真純。 「見ろよ。みんな、『ええじゃねえか』って言っている」グラウンドを見まわす彼の顔を清々しい日光が照らす。 「ええのか、なぁ‥‥‥」 「ええのさ! ええのさ!」 「ええんだよね! ええよ、来て! ああーん、ちょっと、木坂君、唐突すぎぃー! あ、そこはダメ! はうー! みんなに見えちゃうったら! でも、気持ちいい! もー!」 ドンドコピーヒャラ パッパラパッパー ピーヒャラダンダカ パッパラパッパー! 「えじゃえかぁ、じゃねえ! き合うーことのニが悪い!」  どさくさに紛れて、片思いしていた女子の手を取りグラウンドに引っ張り出し、告白する(やから)もいる。 「前から好きだったんだ。抱かせてくれ!」 「いやだってばー!」 「ええじゃねえか!」 「バ、バカァー」  いきなり女子の体操服の裾に手を突っ込みビンタを食らった大バカ者を全校生徒が「がはははははー」と笑い飛ばす。  パッパラパッパー ビーブーボー! 「ユイ先生、オレ……、オレ……」  髪を真っ黄色の染めた男子が湖南高校で一番若い英語教師に迫っている。 「わかってたわ、キミの気持ち。私だってキミのこと……」 「ええじゃねえか、えじゃねえかぁ! オレ、もう我慢できねー! ユイせんせー!」 「あはん! ダメ! あ、そんなところ、みんなの前で……。そこは……、んんああぁああ!」  ピーヒャラピーヒャラ ドンドンチャラチャラ!  グラウンドのまん中で欲望をむき出しにして服を剥がし合い、絡み合う師弟。それを真っ赤なハッピを着た数十名の生徒たちが丸く囲み、阿波踊りで祝福する。ぶしつけな興味津々の視線に男子生徒も女教員もひるがない。 「えじゃえかぁ、じゃねえ! き合うーことのニが悪い! えじゃえかぁ、じゃねえ!」  
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