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「へえー、お姉さん『世界』なんて言葉、使うんだ?」
ちっちゃなちっちゃな花びらを集めている私たちにはあまりにもふさわしくない言葉だと思った。
「高校生だもん。もう三年生……」
「私も、そのうち『世界の構造は……』なんて言うようになるのかなあ?」
「サキちゃんは言わないよ、絶対」
「あら、どうして?」
「そんな言葉、似合わないから。アンタには『初恋』とか『王子様』とかいう方がお似合い」
「もう、お姉さんたら、いつも私を子ども扱い!」
私はベーッと舌を出してやった。舞い散る花びらが口に入って来そうで慌てて引っ込める。
おしゃべりしながらもけっこうたくさんの花びらを集めた。初めて着た制服のポケットを桜の花びらで満たす。なんか、これからの高校生活を象徴しているようにも思え、胸がワクワクしてきた。そんな時だった。
「キャッ!」
上ばかり見つめて花びらを追っていたら、何か黒くて大きなものにぶつかった。鼻がつぶれ鼻血が出るかと思った。同時に何か出っ張ったものが左胸を直撃しすごく痛い。思春期の女の子にしかわからないこの激痛。
「イッターい」
私は胸を押さえてしゃがみこんでしまい、手のひらにのせていた花びらが濡れたアスファルトにハラハラと散る。
「あ、ごめん!」
桜の花びらのように降ってくる声。胸を押さえて見上げると、黒い詰襟を着た男子生徒が目をぱちくりさせながら見下ろしている。切れ長の目。困ったように頭を掻いている。黒の布地に一枚だけ張り付いたピンクの花びらに目が行く。
「いや、これ……、必要かなと思ってさあ……」
うずくまった私におずおず彼が差し出したのは、
「ザル?」
そう、笊だった。流し台で野菜や果物の水きりをするやつ。百円ショップで売ってるようなプラスチックのもの。赤と青の二つ。
受け取ろうと思って手を出したら、カポッ、と頭にかぶせられた。赤と青、二つ重ねたザルを。ははは、私の頭にピッタリ。
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