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さよなら、お姉さん
「あれ? 中川くん」
「へへへ、オレも来ちゃったよ」
真っ白のワンボックスカーの助手席から降りて来たのは同じクラスでサッカー部の中川くんだった。
「あ、大輝がお世話になってまーす」
エンジン音が止まり、運転席から降りて来たひょろっと背の高い男性が片手を上げる。春はもうそこまで来てるけど吹く風はまだまだ冷たい。それなのに中川くんもこの人もジーンズにTシャツという軽装。その二つの顔を見比べ口がぽかんと開いてしまった。
「あははは、言わなくてもわかるよ。双子みたいだって言いたいんだろ?」
「はあ……」
言いたいことを先取りされてしまい、次の言葉が出てこない。まだ、「はじめまして」も「おはようございます」も言ってないのに。
朝子姉さんから、職場の「中川さん」という人が引っ越しを手伝ってくれると聞いていた。まさかその人が同級生のお兄さんだとは知らなかった。
「じゃ、こっちお願いしまーす!」
ガラッと三階の窓が開く。朝子姉さんが半身を乗り出し、喜々として手を振っている。朝の陽光を受けてキラキラ輝いている。新しい出発の朝にふさわしい笑顔だと私は思った。
「今、行くから!」
すごくよく通るバリトンだなと思って振り向くと、手を振る大輔さんの顔も紅潮している。車を降りて来た時よりもかなり紅潮している。肌の細胞一つ一つが生気に漲っている感じ。
──え? このふたり‥‥‥。
直感でわかった。
わかった瞬間、どうか今度こそはうまくいって欲しい、と発作的な祈りが溢れてきた。
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