さよなら、お姉さん

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 目を開けるとお姉さんが残して行った大きな細長い鏡があった。私が映っている。私がそこにいる。私の魂はこんなに若くて美しい肉体を住処(すみか)としている。みんながかわいいと言ってくれる顔。男の子に視線に撫で回される魅力的な躰。  ──ウソだ‥‥‥。  疼くほどに寂しい心がこんなに美しい形をしているなんてウソだ。こんな顔と躰を見てほしいんじゃない。本当は不安で不安でしょうがない私の心をわかってほしい。バイトでもしなきゃ、クラスの中心になって騒いでいなきゃ崩れて来そうな私の心を慰めてほしい。  ──ジュンくん‥‥‥。  たった一つの希望の名を呼んでみた。  すると、ジュンくんのお母さんの夏帆さんが私の左肩に、お父さんの薫さんが右肩に優しく手を置いてくれた。その温かみを私は確かに感じている。貞利博士にミツエさん。愛理にこのみちゃんもいる。みんな仲良く目の前の鏡に映っている。真ん中に泣き虫の私がいる。  「ジュンくん」と呼ぶだけで私がこんなにたくさんの人の愛に包まていることがわかった。園長の里美先生に田口さん。あんなに小さいゆきちゃんとたっくんまで映っているではないか。みんなみんな私の強い味方だ。  真純と美丘だって、私が私である限りこれから先もずっと親友でいてくれるだろう。  不安じゃない。私の魂はみんなの愛に包まれている。  きっと朝子姉さんもそれを確信したから、施設から自立できたんだ。お姉さんの自立でセンチメンタルになっているのは私だけ。なんて恥ずかしい子なの、サキは‼  もっと前向きになれ! 美浜咲! 「ジュンくん‥‥‥」  畳の上に投げ出してあった携帯電話を拾い上げ、愛しい人の声を聞く。 「あの状態のサキを一人残して帰れるわけないだろ。愛光園の真ん前にいるよ。降りて来いよ!」 「あの状態って‥‥‥。そんなに私ひどい顔してた?」 「‥‥‥いや、それでも、かわいかったけどな」 「もう!」  私は部屋を飛び出ると猛スピードで階段を走り降りてゆく。
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