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「おーい、美浜さーん!」
いまドリブルで駆け抜けていったばかりの部員が手を振っている。よく見ると同じクラスの、えーと、誰だったかな‥‥‥。そうそう、中川くんだ。このみちゃんもいるのに、私だけ名前が呼ばれた。彼は制服を着ている姿しか知らなかった。短パンからにょっきり伸びた彼の脚は毛むくじゃらだ。あれが生の男子か……。正直、あまり見たくなかった。でも不愛想にはできない。同じクラスだし。
「がんばってねー、中川くーん!」
大きく手を振り返すと、相手はとても嬉しそうな顔をしてガッツポーズを送ってくれる。
「中川くん、嬉しそうだね」
このみちゃんが上目遣いに視線を送って来る。
「ははは……、いつも教室で眠っていると思ったら、こんなに朝早くから汗流してるからだね。すごいよね」
「あのね‥‥‥」
このみちゃんがまた口をもぐもぐさせている。
「なあに?」
私は幼稚園の先生になったように、優しく微笑みかける。このみちゃんがもうちょっと背が低かったらなでなでしてあげていただろう。
「中川君、サキちゃんのこと、好きだと思う」
「え? どうして?」
「だって、中川君ってね、休み時間いつも視線でサキちゃんのこと追ってるもん。彼、私の隣なのね。だから、わかっちゃう‥‥‥」
「そんなことないよ。このみちゃんの勘違いだって」
「そうかなあ……」
このみちゃんが首をかしげると、漆黒の前髪も傾く。こけしみたいで可愛い。かわいい女子って大好き。これからはもっと仲よくしよう。
このみちゃんの勘は当たってると思う。 仲良しの真純と美丘と女子トークで盛り上がっていると、周りから視線が集まてくるのを感じる。まるで虫眼鏡で日光を集めた焦点のように、下着の線や、胸とお尻のふくらみを焦がしてゆく。その執拗さは制服の中まで見えているんじゃないかと怖くなるほどだ。その中には中川君の視線もある。知っている。でも知らないふりをする。
サッカー部にはザル王子がいないことがわかった。もうここにいる必要はない。
次は野球部だ。
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