疑い

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 訊くべきだろうか。それとも訊かずに済ますべきだろうか。──私には今どうしても愛理に訊き正したいことがある。  ああ、知らなければよかった。こんな「牧村」の伝統のこと。知らなければ、ジュンくんの純潔を信じたまま初エッチができたのに。ジュンくんにとって私が唯一の女性であることが確信できたのに。 「アイリって、ジュンくんの『叔母さん』になるのよね?」  ソファに向かい合ってハーブティーをすすっている時だった。彼女と目を合わさないようにしながら、さり気なく切り出す。 「そうよ」  愛理は喉をゴクンと上下させて、ティーカップをおもむろにセンターテーブルに置いた。 「『叔母』は『甥』の『教育官』なの。お嫁さんを見つけてあげて、性教育までするのよ。それが『牧村』の伝統なの」  愛理は私をまっすぐ見つめていた。眼圧が重すぎて私は直視できない。 「じゃ、ジュンくんにも‥‥‥、その‥‥‥、性教育を‥‥‥」 「そうよ」愛理は間髪を置かなかった。「ジュンがサキと満ち足りた性生活が贈れるように、私自身が教材になるの」  言葉に淀みがない。 「教材って‥‥‥」  疑問文で訊くのが怖かった。だから語尾を濁す。 「躰を捧げるってことよ。セックス体験もさせて、性欲の解消もしてやるってこと」  いよいよ核心を突かなければならない。愛理はジュンくんとヤったのだろうか。ヤったとしたら、私はその事実を受け入れることができるだろうか。今までどおりジュンくんを愛し続けられるだろうか。  愛理の目が見れない。でも、ゴクリと唾を飲みこんで、踏み込む。 「アイリの気に障ったらゴメン。でもどうしても知りたくて‥‥‥。ジュンくんと‥‥‥、つまり教育官として‥‥‥、そういうことが‥‥‥実際にあったのかって‥‥‥」 「なかったの」 「え?」 「だから、のよ」  愛理はきっぱりと言った。
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