122人が本棚に入れています
本棚に追加
訊くべきだろうか。それとも訊かずに済ますべきだろうか。──私には今どうしても愛理に訊き正したいことがある。
ああ、知らなければよかった。こんな「牧村」の伝統のこと。知らなければ、ジュンくんの純潔を信じたまま初エッチができたのに。ジュンくんにとって私が唯一の女性であることが確信できたのに。
「アイリって、ジュンくんの『叔母さん』になるのよね?」
ソファに向かい合ってハーブティーをすすっている時だった。彼女と目を合わさないようにしながら、さり気なく切り出す。
「そうよ」
愛理は喉をゴクンと上下させて、ティーカップをおもむろにセンターテーブルに置いた。
「『叔母』は『甥』の『教育官』なの。お嫁さんを見つけてあげて、性教育までするのよ。それが『牧村』の伝統なの」
愛理は私をまっすぐ見つめていた。眼圧が重すぎて私は直視できない。
「じゃ、ジュンくんにも‥‥‥、その‥‥‥、性教育を‥‥‥」
「そうよ」愛理は間髪を置かなかった。「ジュンがサキと満ち足りた性生活が贈れるように、私自身が教材になるの」
言葉に淀みがない。
「教材って‥‥‥」
疑問文で訊くのが怖かった。だから語尾を濁す。
「躰を捧げるってことよ。セックス体験もさせて、性欲の解消もしてやるってこと」
いよいよ核心を突かなければならない。愛理はジュンくんとヤったのだろうか。ヤったとしたら、私はその事実を受け入れることができるだろうか。今までどおりジュンくんを愛し続けられるだろうか。
愛理の目が見れない。でも、ゴクリと唾を飲みこんで、踏み込む。
「アイリの気に障ったらゴメン。でもどうしても知りたくて‥‥‥。ジュンくんと‥‥‥、つまり教育官として‥‥‥、そういうことが‥‥‥実際にあったのかって‥‥‥」
「なかったの」
「え?」
「だから、なかったのよ」
愛理はきっぱりと言った。
最初のコメントを投稿しよう!