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グランドを大きく回り、長屋のような倉庫の前を通り、バックネットの裏に着く。
一体何時から練習を始めたのだろう。もうすでにウオーミングアップは終わり、ベースラニングをしている。スパイクで地面を蹴る姿がかっこいい。舞い上がる砂なんて、青春そのものじゃないか。男の子ってどうしてあんなに速く走れるんだろう。男子運動部ってワンダーランドだ! 私もこのみちゃんもバックネットにカエルのように張りついて見学する。
「ねえ! ちょっと、そこの女子ふたり!」
ハッと振り向くと、男子部員と同じ黒の帽子に黒のシャツを着た女子がふたり、私たちの後ろに立っていた。
「女子がそこにいられると部員たちの気が散るの。ほかのところに行ってくれない?」
迷惑そうな顔。マネージャーらしい。たぶん2年生。二人とも左手に部員たちの練習着と同じ黒のクリップボードを持ち、右手を腰に当てている。一人は細長い顔の眉間にしわを寄せ、もう一人は丸い頬を提灯のように膨らませている。
「あのう、一年生は……?」
一言訊くだけなのに全身の勇気をかき集めた。声が微妙にふるえる。
「ああ、なんだ。一年生が目当てなのね。彼らはあっち……」
指さす方向に目をやると、白い帽子に白いシャツを着た男子十人くらいの一群が鉄棒の前に群がっている。
「一年生ならかまわないわ。芝生に腰かけて応援してやってよ。でも、ナンパされないように気をつけてね。あいつら人間の姿してるけど、中身は野獣だから」
それだけ言うともう関心はないとでも言うように、向こうに行ってしまった。
「行ってみよう!」
私はすでに一歩踏み出していた。
「サキちゃん、やめとこ……」
「え?」
このみちゃんが腕にすがりついてきた。
「野獣だって……。怖くないの、サキちゃんは?」
「怖いわけないじゃん。みんなうちの高校の子だよ。仲間だよ」
「男子って、みんな男なんだよ」
そんなの言われなくてもわかっている。男子はみんな男だ。あっ……。
──そうか。「男」と言うのはオトコのことか……。
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