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このみちゃんの世界の男子はオトコなのだ。それは限りなくオスに近い。でも私の世界では男子は男子。決して野獣にはならない。そうか、このみちゃんの世界も理解してあげなくちゃ。ひとつの世界を見ているようで人によって見え方が違うのだから。
「じゃ、このみちゃん、悪いけど、ちょっとだけここにいて。私、一人で行ってすぐここに戻って来るから。どうしても見つけたい人がいるの」
「見つけたい人って?」
「うん、私にとても親切にしてくれた人なの。この高校のたぶん運動部。いなかったらすぐ戻って来るから、ちょっとだけ待ってて」
「サキちゃん!」
セーラー服の袖を掴まれて振り返る。
「親切な人がいるなら私も行く」
「でも、ちょっと恥ずかしいことしなくちゃいけないかも」
そう。恥ずかしいこと。私は手に持った赤と青のザルを彼女に見せる。と、一陣の風が起こり、このみちゃんは慌てて短いスカートを押さえた。
1分後、私とこのみちゃんは鉄棒前のこんもり盛り上がった芝生の丘に立っていた。
目の前では男子たちがうめき声を上げながら懸垂している。5回でダウンの部員もいれば、続けて20回くらいできる部員もいる。明らかに私たちを意識している。チラチラと視線を送ってくる。
男子ってすごい。躰のつくりが女子とは全然違うんだ。私たちにできないことを男子たちはやすやすとやってのける。私もこのみちゃんも思わず歓声と拍手を送ってしまう。
「ねえ、みんなー。このザルの持ち主、知らない?」
すべての男子が懸垂が終わり、そろそろキャッチボールに入ろうとした頃、私は真っ赤なザルを頭にかぶり、そしてこのみちゃんにも青のザルをパコンッとかぶせ、声を張り上げる。
「何だよ、それ。お前らのヘルメットかよ!」
一人の声にみんなが、脚本にでも書かれているかのように、爆笑した。声の野太さに圧倒された。なるほど、コイツら、野獣性を秘めている。ちょっと引きかけた。「かけた」じゃなくて、実際、一歩だけ後退してしまった。
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