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隣りでこのみちゃんが顔をまっ赤にしている。風が吹いて短いスカートをなびかせると、部員たちが一斉に「うおー」とどよめき立った。見えちゃったのかもしれない。このみちゃんはザルをかぶったままスカート、というか、短いからそれはそのまま女の子の恥ずかしい部分周辺なのだけど、そこを押さえ、ますます顔を赤くしている。その恰好、お遊戯の最中にお漏らししちゃった幼児のようだ。早くけりをつけないと、彼女、羞恥心がつのって倒れちゃうかも。
「このザル貸してくれた人とデートしたいの!」
その一言であたりはシーンと静まった。そして次の瞬間にはお約束事のごとく騒然となる。核爆弾が炸裂したような騒動だ。
「おい、誰だよあのコ?」「かわいいなあ!」「ミハマサキだよ」「うっそー! オマエ、美浜咲、知らねえのかよ⁈」「1年生!」「ああ、あのコがサキかよ?」「かっわいい!」「バージンかよ?」「んなわけねーだろが!」「オトコいるって!」「いや、処女だ!」「保証する!」……
放射能を含んだ、いや、性欲がみなぎった猛毒キノコ雲がモワーンと立ち昇る。さっき彼らを「仲間だ」と言った自分は大きな過ちを犯していたことにようやく気づく。
「おーい、オマエら、よく考えろよ!」
一年生のリーダーらしき男子が前に進み出て部員たちに問いかける。
「野球部が恋愛禁止なことは知ってるなア⁈ 甲子園出場に青春をかけるヤツは美浜咲はあきらめろ! 美浜咲と一発ヤりたいなんて思ってるヤツは野球部から除名だ! いいか、二つに一つだ。天秤にかけてよく考えろ! 俺なら……」
「俺ならぁ⁈」「どっちだ⁈」「野球とるのかよ⁈」「どっちなんだよ⁈」「野球よりオンナだろ、オマエは⁈」「もったいぶるんじゃねーよー!」
あちこちから上がった雄叫びが一人を問い詰める。校舎に反響して木霊のように返って来る。自分自身への問いかけとして返って来る。
「俺なら……、野球部をやめて美浜咲を取る! だが……、あのザルはオレのじゃねー……。チクショー!」
「チクショー!」「オレの女神ぃー!」「ヤりてーよー」「うー、サキー!」
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