腰痛

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腰痛

 やばい。  腰を痛めた。  いつものようにユニフォームに着替えバックヤードから店舗に出ると、アルバイトのおばさんがしゃがんで商品を棚に陳列していた。パン用の小さなコンテナーが空になって脇に置いてあった。本当に小さくて軽いものなのに。女の子でも片手で易々持てるくらいなのに。それを腰を折って床から持ち上げたとたんに、 「あたっ!」  痛みが腰から脳天に突き抜け、前にのめった。とっさに近くの陳列台につかまった。 「だ、大丈夫、キミ?」  私の異変にいち早く気付き駆けつけてきたのが、うちの高校の制服を着た男子生徒だった。持っていたカゴを放り出し走り寄ってくる。カゴの中身が床に散らばった。 「大丈夫ですから……」  腰から首筋を伝わって頭皮にまでピリピリくる痛みにもかかわらず精いっぱいの笑顔をつくる。本当は大丈夫なんかじゃなかったから、彼が支えてくれたことはタイムリーだったのだけど。がっしりした男子の身体に支えられる。 「キミ、美浜さんでしょ? 一年生の」 「あ、はい……」  知らない男子が私の名前を知っているのは、特に高校入学以降よくあることだ。 「オレにつかまって」 「あ、でも……」  ためらっていると、腰に手が回された。がっしりと支えられる。ふだんなら男の人に腰を触らせるなんてことは絶対しないのだが非常事態だからしょうがない。もう一方の手で痛みに震える私の手を握ってくれる。ざらっとした感触。汗の匂い。 「美浜さん働きすぎだよ。学校終わってからずっと立ちっぱなしだろ」  彼はオーバーに語尾を上げた。そのあとすっと声を落とし、 「ダメだよ。女の子は腰が大切なんだから」 「え? こ、腰……?」
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