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ふたたび王子さま探し
翌朝、腰の痛みはだいぶ和らいでいる。若いんだから一晩寝たら治るわよと職員のお姉さんが言ってくれたのがその通りになった。だが、桜坂を登る時こころもち前かがみになったら、背中に凝った部分があって、そこから腰に針のような痛みが降りて来た。
これはまずいことになった。バイトで医者に通える時間なんてないし。
「おはよう、サキ!」
「おはよう、このみちゃん!」
机にカバンを置いたら、窓辺のこのみちゃんがすくっと立ち上がり、今日も探しに行くんでしょ、と訊いてきた。
「今日は体育館なんだけど。えーと、バレーボール部から」
とたんにこのみちゃんの顔が輝きだした。羞恥心と喜びが交錯したような女の子のこの表情、よく知っている。
──このみちゃん、好きな男子がバレー部にいるんだね?
そう訊きたかった。でも、女の子の心はデリケートだから、言葉には出さなかった。
誰だろう。クラスの鈴木くん、それとも江上くん? 二人はいつも女子バレー部の野中さんと本庄さんたちと一緒にいる。つきあっているということではなさそうだ。伝統的にバレー部は美男美女が多い。真偽のほどは疑わしいが、バレー部の男子にはバレー部の女子というお約束事もあると聞いている。野中さんも本庄さんも背が高くて、小顔で、垢ぬけていて、性格もさっぱりしている。果たして背の低さでいえば私とどっこいどっこいのこのみちゃんが、引っ込み思案のこのみちゃんが、決して美人とは言えないこのみちゃんが、どこまで食い込んでいけるだろうか。
腰をいたわりながら階段を下りてゆく。体育館への渡り廊下を渡るとき、グラウンドに源次郎先輩の姿が小さく見えた。ゴールキーパーをやっている。ゴールポストぎりぎりを狙ってくるボールにジャンプしてしがみつく。その姿があまりにもカッコよくて、私は手に持ったザルを落としそうになってしまった。朝子姉さんが好きになる理由がわかるような気がした。
目の前に体育館の鉄の扉が見える。年季の入って塗りがはがれかかっている扉。半分開いている。きっと、あそこから中がのぞける。だが……、
圧倒された。
何にかって?
女子たちにだ。
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