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男子バレー部の見学に来ている女子の多さとレベルの高さに私は完全に圧倒され打ちのめされたのだ。10人はゆうに超えている。みなスラリと高身長だ。校則の規定を超過し髪が長い。スカートの丈が短い。
背の低い私とこのみちゃんが隙間から割り込んで体育館の中をのぞこうとすると、たちまち凹凸豊かなボディーたちにはさまれ窒息しそうになる。バストで顔を押さえつけられ、ヒップで全身が跳ね返される。
「きゃっ!」
二人してコンクリートに尻もちをついてしまった。
雨に濡れた犬がからだをブルブル振って水切りするように、私もふらふらする頭を振る。見上げると、上級生たちがこっちを見て固まっている。その視線を追うと──、このみちゃんのスカートの中!
うしろに両手をつき膝を広げているから、短いスカートが捲れ上がり、見事にゴカイチーンになっている。私からは太腿にさえぎられかろうじて見えない。今日はいったいどんなショーツを穿いているのだろう。上級生らの驚愕と嫉妬と軽蔑の混じったような目つきからすると、セクシーさの半端でないことが伺える。
「チビのくせしてそんなの穿いて……」
「そうよ、どうせカレシもいないくせにパンツだけはつっぱってるんだから……」
「そんなパンツであのイケメンたちが引っ掛かると思ってんの?」
「一年生のくせにでしゃばるんじゃないの!」
上級生の非難と叱責を一身に受けているこのみちゃんがかわいそう。しかし……、いったいどんなショーツを……。
気になる私はコンクリートにぶつけた腰をさすりながら、這うようにして前に身を乗りだす。視線がもう少しで彼女の奥に達しようとするとき、
「もう!」
膝と膝がぶつかって音が出るほど勢いよく膝が閉じられてしまった。上級生たちを見上げる彼女の目が尖っていた。教室では生まれたての子犬のように無垢だった瞳が敵意にギラギラ燃え盛っている。それは上下関係への反抗というよりは、オンナという性から不可避的に溢れ出るどす黒い感情とでも言えようか。
体育館の中からキュッキュッとシューズのきしむ音、ブボーンとボールが激しく床に打ち付けられる音、それに男たちの雄叫びやホイッスルの音が漏れ聞こえてくる。それらは私の胸の鼓動に共鳴し、血管を通じて全身に拡散してゆく。私の躰が体育館になったような、いや宇宙になったように感じがする。このみちゃんも心臓に手をあて、私と同じ体験をしているのだろう。荒々しい呼吸はいったい誰を思ってのことなのだろうか。彼女の心を独占している男子は誰?
ふと後ろを振り返る。
「サキも来たの? あ、宮田さんも?」
「サキは誰がお目当て?」
同級生だった。その周りに立っている女子も上履きの色で全員一年生とわかる。そう、上級生に邪魔され体育館を覗き見ることもままならないでいるのだ。なんてかわいそうな小犬たち。同情心で胸が熱くなる。
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