ふたたび王子さま探し

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 いつの間にか体育館が静かになった。 「ほらほら、アンタたちどきなさいよ。道開けて。ほら、そこ。ぼさってしてるんじゃないの!」  芸能人並みに鼻筋が通り、セクシー女優並みに丸い胸を張りだした3年生が声を荒げる。  女子たちが宮廷につかえる侍女のように左右によけ、体育館の出入り口から渡り廊下にかけて花道を作り出す。さっきより人数が増えて、ざっと二十人くらい。憧れの男子にわたそうと、きれいな封筒を携えている女子もいる。作って来たお弁当を胸に抱いている女子もいる。この切ない女心を男子たちは知っているのだろうか。  私とこのみちゃんは花道を外れ、校舎に入ったところの薄暗い廊下に身を隠す。石の裏で獲物をねらうのサソリのように。  始業のチャイムが鳴る。  この時間に教室に居なければ遅刻としてカウントされるのが原則だ。まあそれは担任により甘くなったりするのだけど。11HR(ホームルーム)の担任、上原先生は出席チェックには厳格なほうだ。今日は間違いなく遅刻が一つつく。  出てきた。  早く着替えを終えた上級生たちが鉄の扉を開けてすごい勢いで出てくる。肩にかけたスポーツバッグが扉に当たって大きな音を立てる。肩で風を切って歩くと言うのはこのことか。堂々としている。歩いているのにそのスピードは走っているようだ。本当に彼らが去った後には風が巻き起こることを知った。夏服のワイシャツの上からでもうかがい知れる逞しい肉体。お目当て男子を見つけ、女子たちが抱きつく。すでにつき合っているカップルもあれば、ただの憧れでからだをすり寄せて来る女子もいる。  顔を真っ赤にして手紙を渡す女子。無関心そうにそれをひったくる男子。「これ、召し上がってください」と弁当箱を差し出す女子。好みの女子の肩を抱き教室に向かう男子。抱き合ってこれ見よがしにキスを交わすカップル。──ここはまさに乙女の憧れとどす黒い性欲が交差する修羅場だった。
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