ふたたび王子さま探し

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 私のすぐ鼻の先を天然パーマの栗毛の男子が通り過ぎる。目鼻立ちは明らかに西洋の血を引いている。この人知っている。全校集会のとき舞台上で表彰された人だ。なんて言ったっけ。そうそう、阿久津先輩……。確かお母さんが北欧出身の有名なアスリートだったはずだ。  彼は女子生徒の腰に手を回し、校舎に入ってすぐの階段をグングン登って行く。下から見上げると、腰が逞しく脚が長い。汗に濡れたワイシャツが背中の肌色を透かしている。  その後ろ姿に、あたかも神さまにでも祈るように手を合わせている女子がいる。 「このみちゃん……」  私が肩にそっと手を乗せると彼女は振り向いた。その目は真っ赤に充血し、くちびるが震えている。顔が真っ赤に染まったかと思うとすぐに臆したように真っ青になる。熱があるのかと疑ったほどだ。 「三年生だったんだね、このみちゃんの……」  私は彼女の両肩に手を置き、膝を折って彼女のうるんだ眼を覗き込む。 「苦しいの……。私、苦しいの……。阿久津先輩……」  憧れの先輩の名前を呼びながら、まるで毒薬に焼かれるように、胸を掻きむしっている。そうか……。恋焦がれる女は本当に胸を掻きむしるのだ。 「こ、このみ……」  片思いに胸焦がす乙女がかわいそうで、胸にギュッと抱いてあげる。真っ白いセーラー服がこのみちゃんの涙で濡れた。  三年生が去りしばらくすると、二年生たちが前を過ぎ去っていく。親衛隊に囲まれながらホクホク顔で歩く部員。女子に手渡された手紙を無造作にワイシャツのポケットに突っ込む部員。きれいに包まれた弁当箱に顔を寄せ臭いを嗅いでいる部員。「オマエに決めた」と、適当に選んだ女の子をお姫さま抱っこして花道を闊歩する者もいる。モテる男子は皆、生気に漲っている。  残っている女子はみな一年生だ。さっきより人数が減っている。きっと二年生か三年生が目当てだったのだろう。  束の間の静寂。生暖かい風が恋に燃える女子たちの頬を冷やして過ぎ去っていく。  5分ほどして片付けに時間のかかったらしい一年生が出てくる。上履きの色を確かめる。確かに一年生だ。五分刈りの名残が歴々としている一年生。上級生より疲れて見えるのは気のせいだろうか。 「このみちゃん、かぶって!」  私とこのみちゃんは一斉にザルをかぶる。周りの女子の棘のある視線。嘲弄するような忍び笑い。あからさまに侮蔑の態度を見せつける女子もいる。
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