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「そのザル、返しに来たんだろ? サンキューな!」
彼は広い手で私とこのみちゃんの頭からザルをはがす。
「はい、約束通り、返しに来ました。あのう……!」
用は済んだとでも言うように階段を登って行こうとする彼を私は声を限りにして引き止めた。
「お名前教えてください。そしてクラスも!」
「俺の? いいよ、名前なんか。関係ないだろ美浜咲さんには」
王子は私の名前を知っていた。
このみちゃんは私たちのやり取りに興味津々だ。これからの展開がどうなるのだろうかとワクワクしているのが私にも伝わって来る。
「関係あるんです! だって……」
話は終わってないのに、彼はぐんぐん階段を登っていく。脚が長い。ピンと背の伸びた後ろ姿が凛々しい。二つ重ねたザルを頭にかぶった彼はもう踊り場まで行ってしまった。追わなくちゃ! 会いたかった彼を追わなくちゃ!
「お願いです。待って! ちょっと!」
あわてて階段を登りやっと踊り場までたどりついたとき、突然腰に激痛が走った。右足がピーンと引きつって膝が曲がらない。
「きゃっ!」
足が上がり切れず、段に引っ掛かって無様な恰好で転んでしまった。肘が階段の角のあたりグキッと変な音がした。後ろから私を支えようとしたこのみちゃんの手が咄嗟にセーラー服のフロントを掴む。その瞬間、フロントホックが弾き飛び、前がはだけてしまった。
「いやーん」
見下ろすとキャミソールの下のピンク色のブラが透けている。慌てて前身頃を合わせる。
「おい、大丈夫か⁈」
二段飛ばしの速足で二階から降りてくる。相変わらず二色のザルを頭にかぶっている。階段の下から複数の女子がこの様子を見守っている。嫉妬の目を燃やして。
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