桜坂の王子さま

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 ぶっきらぼうだけどきっと優しい人なんじゃないかな。眉毛が凛々しいし、鼻筋がすっきりと通っている。あの五分刈りが伸びたら、きっと素敵な男子だ。イヤだ、どうしよう、私……。顔がほてってくる……。  やっぱり朝子姉さんの言うとおりなんだ。早くも「王子様」「初恋」といった言葉が胸の中で桜の花びらのように渦を巻いているのだから。 「同じクラスじゃなくてもさあ、彼女の面倒、見てほしいんだけど……。ほら、こんなにかわいい子だし……。」  朝子姉さんが私の肩に手を回し、彼の前に押し出す。 「あ、ちょ、ちょっと、お姉さん……」 「ほら、見てよ。中坊くん!」 「中坊くんって……。僕、一応もう高校生になるんだし……」 「この子ってね、ほら、眉毛だってこんなにくっきり長いし、くちびる、こんなに赤いんだよ。信じられるぅ? リップ塗ってるんじゃないよ。()のくちびるよ、地のくちびる! ほっぺたなんてこんなに血色がいいし、それに、見てよ。このツヤツヤの髪の毛……。お化粧なんてしなくてもこんなに綺麗なの」  朝子姉さんが、背を屈めて頬をツンツンと指でつついてくる。 「いやあ、お断りします。だってこの子、男子にモテそうだから」 「はい?」  意外な言葉が返って来て、お姉さんは豆鉄砲を喰らったような顔をする。私も乳房の痛みが飛んで行った。  そう。よく知ってるわね。私ってモテるのよ。幼稚園の時からね。だって、私って底抜けに明るいし、茶目っ気もあるし、頭もいいし。それになんてったってかわいいのよ。笑顔も澄まし顔もプク顔もムー顔も……。なーんちゃって。ヘヘへ……。  で、でも。──なんでモテそうだとお断りなのかしら。この男子、きっとかわいい女の子にトラウマかコンプレクスみたいなものを持っているにちがいない。けっこう端正な顔しているのに、かわいそう……。 「僕、一人の女子をめぐっての争奪戦ってうんざりなんですよ。中学で経験してるし。クラスが違ったら、この子のことはクラスの男子に任せてください。僕は女子になんて興味ないし、なにしろ平和主義者ですから。あ、それに……」
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