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これは重要なことだとでも言うように王子は人差し指をピンと立てた。次の瞬間その指先が「キミ……」と私の鼻先に向けられる。そしてツンと澄ました高貴な雰囲気が大雪崩のようにゴーっと轟音とともに崩れ去ったかと思うと、瞬時に、ニターっとオジサンチックないやらしい表情に激変する。
「……不感症っぽいよ」
「ふ、不感症⁈」
お姉さんは素っ頓狂な声を出し私を見た。「不感症」というレッテルを私のどこに張り付けようかと躰中を舐めるように見回す。
私の方は戸惑っている。「不感症」って……えーと、えーと……。なんだっけ? 目の前をヒラヒラと舞う桜の花びらが無知な私を嘲笑っている。
「そう、おっぱい触られても感じないやつ……」
詰襟クンは腕組みして不遜に私を見下ろす。その視線の先にあるのは私の胸のふくらみ。私はまだジンジンと疼くそれを両腕で隠す。
「はあ? お、お、おっぱ‥‥‥」
だが、高い位置から見下ろされると、丸くて柔らかいものの全体が見透かされているような気がする。イヤだ、このオジサマ、なんてエッチなの?
私は前に交差した両手で自分の胸をつかむ。そうつかんだのだった。だって、ぎゅっと握っていなければ、この王子モドキに赤外線カメラで透視されているような気がしたから。
「そういう女子ってすぐ飽きられるんだよね……」
「はあ? ちょ、ちょっと‥‥‥」
「‥‥‥ということで、僕はこれで失礼しまーす」
踵を返し坂を下って行こうとする詰襟クンの腕に私はひしとしがみつく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
しがみつくのは、躰が小さい私が人を呼び止める時のクセなのだ。
「は?」
振り向いた瞬間に彼の腕がまた胸に擦れる。
「あなたねえ、初対面の女の子に不感症だなんて、ひどすぎない? 根拠もないのに?」
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