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「ひゃっ! ダメ!」
躰が重ねられた。全身が柔らかいものに覆われ、ベッドが激しくきしむ。正体不明の女の体温が直接肌に触れ内臓にまで伝播する。長い髪の毛が顔にかぶさって来る。
このみちゃんはこんなに髪が長くない。
相手も裸だった。それも一糸まとわぬ状態。乳房と乳房が重なり歪む。私のよりもふくよかで柔らかい乳房。剛毛が私の太腿を這う。足が縛られているおかげで、相手は私の股間に忍び込んでこれないのがせめてもの幸い。
両手で後頭部を支えられ、唇を押しつけられる。舌であっけなく割られ、侵入してくる。歯で阻止する間もなかった。
「うぐ……、んん……、イヤ!」
私は狂ったように首を振る。守らなきゃ……。自分の躰は自分で守らなくちゃ……。
両手で顔を挟まれ、顔中舐められた。くちびるで吸われた。鼻の頭を甘噛みされた。耳の複雑な地形を隅々まで舌が這う。気持ち悪くて鳥肌が立った。舌がうなじを下りてくる間、半開きの口には指が三本突っ込まれていた。舌がつかまれそうになる。嫌だ。絶対に掴まれたくない。私は必死に舌を動かす。舌がしょっぱい味を感じている。爪が長い。やっぱり女子だ。
乳首を思いっきり吸われた。
「ひっ! 痛い!」
ちぎれるかと思うくらい吸い上げられた。イヤだ。愛撫ってこんなに痛いものなのか。だとしたら私は絶対カレシなんて作らない。舌のヌルヌルした感触が気持ち悪い。吐き気さえ催す。
どんなに吸われても揉まれても快感の花が開かない私に嫌気がさしたのだろうか、女の行為は徐々に緩慢になり、おざなりになり、無関心になり、とうとう離れていった。
丁寧にも顔と身体に付着した唾液をウエットティッシュで拭いてくれた。何度も何度も丁寧に。一応、良心の片りんらしきもの持ち合わせているらしい。
女は出て行った。シーンとした保健室で私は嗚咽した。吐きそうになるのを一生懸命我慢した。
こんな時、女の子はお母さんの名を呼ぶのだろう。でも私には母はいない。母を呼ぶ気持ちもわからない。孤独なんだ。一人ぼっちでこの世を生きているんだ。氷のように冷たい寂寥感に胸の奥が冷えてゆく。それを私はどうすることもできない。ただただ自分の心が冷たい感情に支配されていくのを第三者のように傍観するしかないのだった。
廊下の向こうの方からパタパタと行儀の悪い足音が聞こえる。だんだん近づいてくる。あの音はフミカに違いない。それにしても正体不明の女が出て行くのとタイミングがぴったり合っているではないか。
あまりにも合いすぎだ。
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