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ピーピーピーとパルス機器が治療の終了を知らせる。背中から臀部に刺さった鍼をすべて抜かれ、アルコール消毒されると、我知らず口と鼻から大きな息が漏れた。
「初めてで、緊張したみたいだな」おじいさん先生の優しい声が降ってくる。
「じゃ、今度は仰向けになってください」と事務的に告げるのはミツエさん。
「え⁈ 終わったんじゃないんですか」
語尾の上がり方がえらく急になってしまった。隣の患者さんのフフフと笑う声が聞こえた。
「生理不順も直しておかないとね。先生に打ってもらうと、女性ホルモンが活性化して、お肌もきれいになるわよ。お乳にも打ってもらいましょうね。バストアップもしておかないと。そうそう、もう高校生なんだから、いつカレシができてもいいように、性感帯も開発しておかないと……」
「せ、性感帯……、ですか?」
ミツエさんは「そうよ」と、目をギロッとさせて意味ありげに微笑んだ。
肘をついて上体を起こし仰向けになる間、ミツエさんは躰をバスタオルで隠していてくれていた。ショーツがぎりぎりまで下げられ、バスタオルで覆われる。
たくさんの鍼が入った。左右のデコルテに合計8本か10本くらい。恥骨のすぐ上からお臍のあたりにかけてやはり10本くらい入っているようだ。左右の鼠径部に深く刺された鍼がある一点に到達したとき、膣がプルプルっと震えた。子宮だったかもしれない。本当に性感帯が活性化しようとしているのだと実感した。
ショーツなんてあってないようなもので、おじいさん先生にはすべて見られていると思う。でも恥ずかしくはない。だって、おじいさんだし紳士だし、職人気質が滲み出ている方だから。
それでも若い女の子がかわいそうだからと言って、ミツエさんは露出を最小限に抑えようと治療に支障のないぎりぎりのところまでバスタオルを掛けてくださる。
「養護施設で頑張っているから、これはご褒美だ」
何のことかと思う間もなく、顔面に鍼が降りて来る。心の中で「うわーっ」と悲鳴を上げ、堅く目をつむる。
「眉をしかめるんじゃない!」
「はい!」
「ほっぺから力を抜いて!」
「はい‥‥‥。ぐすっ‥‥‥」
泣きたくても鍼が刺さっているから泣けない。
鍼は顔のあちこちに刺さっている。目頭のあたり、頬骨の下、鼻の下、顎……。こめかみにも‥‥‥。
「あら、いいわねえ。それ、美容鍼よ」とミツエさんの声。脇で目を細めているのが目をつむっていててもわかる。
治療の後、待合室で少し休んでいくように言われた。
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