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ボブカットの髪の毛が揺れるように首を傾け、思い切り語尾を上げる。背の高い男子にはこの角度で首を傾げるのが一番かわいく見えることを私は知っている。言っておくが、侮辱されて怒っているわけではない。むしろこの機を利用して私の印象を彼にしっかりと刻み込んでやろうと思ったのだ。今思えば、この時から、生意気なこの男子に気があったのかもしれない。
「根拠は──それだよ」
彼の指先が、彼の二の腕に押し付けられた私の胸を指した。ピッタリと男の子の躰の一部に押し付けられた行儀悪い私のおっぱいを……。
「あら……、イヤだ……」
慌てて彼の腕を解放し、一歩後ろへ退く。両腕で胸を隠し、なぜか脚までよじってしまう。恥ずかしくて目が上げられない。
「オマエさあ、高1にしては胸が大きいのに、全然感じてないんだろ? そういうのを不感症っているんだろ?」
「ひど……」
言葉が出ない。ただ低い位置から額越しに彼を睨みつけるが精いっぱい。頬がカッカと火照ってくる。
アンタだってまだ五分刈りのくせに、女の子の胸の何を知って生意気な口を叩いているのかしら……。
「まあ、いいさ」
その瞬間、私は彼に顎をつままれた。そう、顎を……親指と人差し指でつままれたのだ。彼の顔が降りてくる。え? こ、これって……、これって……。
真っ青な大空を背景にした彼のルックスは本当に素敵だった。まさしく「王子様」の名にふさわしい。私は、その次に来るものに期待し、心臓がバクバク鳴っていた。瞼はもう半分閉じかけていた。くちびるもちょっとだけ突き出ていたかも。だが……、
「オレが、開発してやる。オマエの……、セ・イ・カ・ン・タ・イ」
王子はポイッとゴミでも捨てるように私の顎を放す。私の後頭部からコツッとネジがはずれるような音がした気がした。ファーストキスへの期待が冷めやらぬ私をその場に残し、悠々と坂道を降りて行く王子。
「な、なによ、中坊のくせして、女の子の何を知っていると思って……」
怒りにかられたお姉さんは私をキッと睨みつけた。
「アンタ、不感症呼ばわりってオンナとして最大の屈辱なんだよ。もっと怒りなよ!」
不感症と決めつけられたのは私のほうなのに、怒りはお姉さんのほうが数十倍激しい。
はらはらと、花びらがお姉さんを避けて散り落ちる。
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