長いもので貫かれる

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「私もね、結婚したての頃、先生にお鍼とお灸をしていただいたの」ミツエさんが啜った湯呑を受け皿に置いて続けた。「それで、なんていうのかしら……。性感帯? 感度? それがすごく敏感になっちゃって。夜の生活がすごく楽しくなって……。フフフ、あなたの前だとどうしてこんな恥ずかしい話ができるのかしら。聞き上手ね、咲さんって」  居室のベランダ寄りの隅に観葉植物の鉢が置かれている。その広い葉に隠れるようにしてスツール型の木製装飾台に何か仏像のようなものが置かれていた。高さ30センチくらい。よく見ると男女が対面座位で抱き合っている金属工芸品だった。 「ああ、あれね。あれ歓喜仏って言うのよ。チベット密教のセックスの仏様……。フフフ……。私たち、若い頃はあんな風にして毎日毎日セックスしてたわ」  そんな話をするミツエさんの顔は歓喜仏の恍惚の表情に負けていなかった。 「あなたもお友達どうしでセックスの話したりするのかしら」  ミツエさんが横からのぞき込んできた。興味津々のまなざし。年を取るほど若者同士のセックスに関心がいくという話は聞いたことがある。 「いいえ、私、そういうことは……」  顔が火照ってくる。それを隠したくてうつむいてしまう。ミツエさんが、ほほほ、と笑う。 「セックスに偏見を持ったらいけないわ。オンナはセックスで幸せになれるのよ。子供もセックスで生まれる。本来なら、セックスは賛美されるべきものなのよ」 「賛美するんですか。それって褒め称えるってことですよね。つまり、セ……を」  その言葉を言えずに私はどもる。心臓がドキドキしている。
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