スケバンに囲まれる

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スケバンに囲まれる

 休み時間、両隣の真純(ますみ)美丘(みおか)とキャッキャ盛り上がっていると、このみちゃんに肩をつつかれた。 「サキぃー、呼んでるけど……」  不安そうな表情の彼女の肩ごしに、知らない女子が後ろの出入り口で私を睨んでいた。 「アンタが美浜咲?」 「そうですが……」  静かなところへ行こうと言われた。しぶしぶ彼女の後ろをついて行こうとすると、ぬわっと現れた二人の背の高い女子に左右から腕を取られ、強制連行されるかたちになった。後ろを振り向くと真純と美丘がこのみちゃんが棒立ちになり真っ青な顔をしている。  昇降口を通り過ぎ廊下の突き当りに行きつく。そこは生物室の出入り口になっているのだが、脇に広がった空間があって、そこに押し込められると職員室からも見えない。ドンと胸を押され、冷たい壁に背中を押し付けられる。 「ちょっと‥‥‥、いったい何なんですか?」 「‥‥‥」  抗議しても三人は申し合わせたように何もしゃべらない。背の高さと鋭い目つきで私は完全に制圧されている。  11HRからはここまで視線が届かない。このみちゃんが昇降口の柱に身を隠し、こちらを見守っている。三人の女子には気づかれてない。  上履きの色は一年生だ。言葉の響きが刺すように冷たい。目つきだけでなく体全体から敵対心が滲み出ている。 「16ホームの牧村くんのことなんだけど……」  三人の中で一番体格のいいキツネ目の女が切り出す。どうやらこの女が(かしら)のようだ。 「牧村くんって……?」 「すっとぼけるんじゃないヨ!」  いきなり右の胸を鷲掴みにされた。痛くて叫ぼうとしたら、手のひらで乱暴に口をふさがれた。後頭部がガツンと壁に当たった。 「牧村ジュンのことだヨ!」  ああ、ジュンくんのことか。そうか、牧村ジュンくんって言うんだ……。市内で一番多い苗字と私の好きな名前の組み合わせ。とても素敵だ。危機的状況にもかかわらず、王子さまの名前がわかって嬉しい。この時点では私にはまだ心理的余裕が残っていた。 「は、はい……。知ってます。それが……」  上目遣いに言った言葉が震えてしまう。同じ一年生なのに敬語になってしまう。三人がを見合わせてニヤッとした。揃いも揃って私より背が高いから妙な圧迫感を感じる。
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