スケバンに囲まれる

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 突然の大騒動に、一階のあちこちの教室から生徒たちが飛び出して来て、こちらの様子をうかがっている。 「なんでもないわよ!」  うちのクラスのみんなに囲まれると、キツネ目はひるんだ。二人の子分もくちびるを震わせている。  中川君が私とキツネ目の間に割り込んで来る。 「美浜咲さんに何かしたら、オレたち、ゼッタイ許さねえから!」  木坂君が詰め寄ると、気迫に押されたキツネ目が一歩後ずさった。子分たちも威勢を失い、身長が10センチくらい縮んだように見えた。 「女でも手加減しねーぞ!」  渡辺君がキツネ目の右手首を空手チョップではたくと、金属音が廊下に響き渡った。床に落ちたハサミは真純と美丘たちの足元にまで滑って行った。「ヒャー!」と悲鳴が響き渡る。  大丈夫。同じクラスの男子も女子はみんな私の味方だから。身分不相応に出しゃばりさえしなければ、何も起こりはしないだろう。でも、愛光園だからって、彼に近づくことがどうして身分不相応なのだろう。親に捨てられた子供は恋もしてはいけないというのだろうか。  六限目の始まりを告げるベルが鳴る。スケバンたちは悪態をつきながら群衆をかき分け階段を上っていく。三人ともスカートの下からのぞくふくらはぎが震えている。 「きゃっ!」  子分の一人が、そう、あの頭の悪そうな女が階段に足を引っかけて前のめりの転んだ。あんな長いスカートがまくれ上がって、ショーツが見えた。ベージュの地味なものだった。あんな地味なのをはいているから、私のちょっとかわいめのショーツが「つっぱって」見えたのだろう。    彼女らの姿が見えなくなるまでうちのクラスの男子は睨みをきかせていた。  私は脚がぶるぶる震え、冷たい床にへなへなとしゃがみこんだ。このみちゃんの胸に抱かれた時、すでに頭が真っ白になっていた。 「サキ、大丈夫?」 「‥‥‥」 「サキ、サキ! しっかりして!」  私を心配そうにのぞき込むこのみちゃんと真純と美丘にひとこと何か言ったような気がする。でも何を言ったのかは覚えていない。目の前の大好きなクラスメイトたちの顔がだんだん薄れていくのに、ここにいないはずのジュンくんの顔だけが輪郭が鮮明になってきた。ああ、彼が守ってくれたんだ、と思った。 「ジュンくん‥‥‥」  と呼んだような気がする。あるいは呼んでなかったのかもしれない。  ある瞬間、意識がフワッとどこかへ飛んで行った。
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