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週末の朝にふさわしい輝くような笑顔。彼は私の前を通り過ぎベランダ寄りのカウチに腰を下ろした。すると彼の手が伸びて来て手を引っ張られる。
「な、なに……?」
気づくと私は彼と直角に向かい合って、至近距離に座っていた。ハーフパンツからむき出しになっている彼のごつごついた膝が私の膝にぶつかる。予想だにしなかった展開に胸はドキドキだ。
「ということは……、ジュンくんのおじいさんなの、鍼灸師の先生って?」
診療室の方を指差して訊くと、彼がコクコクとうなずく。
「そうだよ。あれ? だって、表札見なかった?『牧村』って」
「見た見た。でも、『牧村』さんって私たちの町、すっごく多いから……」
ジュンくんは、それもそうだよな、と言って、はにかむようにクククと笑った。子供っぽさにもどこか高貴な雰囲気をまとわせた笑い方。まっ白な歯に見とれてしまう。
「キミの腰痛が深刻そうだから、日本一腕のいい鍼灸師を紹介した。で、どう、調子は?」
慌てて視線を逸らせたが、ちょっと遅かった感がある。彼に見とれていたこと、ばれちゃっただろうか。
「おかげさまで、絶好調。全然痛くないよ。ほら、見て!」
私は立ち上がり腰を右に捻り左に捻り、大きく回したりして健康をアピールする。
「ふーん……」
手で顎を触りニタニタと眺めているジュンくん。視線が私のお尻に集中している。
ああ、また軽はずみなことをしてしまった。彼の登場に有頂天になり、思わずヒップダンスを披露してしまったのだ。あわててソファーに腰を落とす。さっきよりちょっとだけ距離を置いて。そして「いやだ、私ったら」と、熱くなった顔を手で煽ぐ。
「すぐ赤くなるんだね」
彼の手が腰に回され、またさっきの至近距離に引っ張り戻される。膝と膝がぶつかるのは二度目。彼、わざとぶつけてきてない? けっこうプレイボーイなのかも。
「うん、おっちょこちょいなことばかりやってるから……」
「胸元まで真っ赤だ」
顔だけでなく躰まで観察されていた。羞恥心から私はさらに赤くなる。紅潮した躰を隠すのに腕が4本ぐらいほしい。
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