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「俺は、ここ」
彼はハーフパンツから剥き出しになった右ひざを指し示した。赤い点々が散らばっている。
「膝が悪いの?」
「水がたまるんだ。中学の時から何回も水抜きやってる」
「そうなんだ? かわいそう……」
彼の膝にそっと手を当てた。無意識の行動だった。幼い頃から体のどこかが悪い人がいると、そこに手を当ててやらずにはいられないのだ。私の手で少しでも痛みが和らいでくれたらいいと思う。それにしてもなんて長い脚なんだろう。ふくらはぎと太ももの筋肉の比率はきっと黄金比とでも言っていいくらいにバランスが取れている。
「バレーボールのやりすぎじゃない?」
「俺もそう思ってた。でも、じいちゃんに言わせると、内臓からきてるらしい。だからほら……」
シャツを捲り上げるとお灸の痕が点々とほんのりと赤くなっている。お灸の痕より腹部に浮き出た筋肉に形に驚いた。
「腹筋……、すごいね」
私は口元に手を当て思わず魅入ってしまった。膝に当てていた手を伸ばし、腹筋の凸凹をたどってみる。かたい。女の子のお腹とはぜんぜん違う。思わず「わあ」と感嘆の息が漏れる。
「胸の筋肉も……、すっごーい」
私は彼の乳首のちょっと下から肩にかけて、手のひらで筋肉の感触を味わった。男子の胸って、鍛えると女の子のおっぱいよりも盛り上がることを初めて知った。
見上げると、彼のニヤケ顔に出くわした。え? 私、またやらかしてしまったのかしら?
「美浜さんってさあ、きれいで、かわいくて、上品な感じするけど、けっこうエッチだよね」
「エ、エッチ⁈ 私が⁈」
声が裏返った。目がチカチカして何度も瞬きをした。不感症呼ばわりの次は、エッチ呼ばわり。ひどい、あまりにもひどい!
わたくし、あなたに抗議します!
「そう、男の躰平気で触ってくるしさあ……。そこ、けっこうビミョーな部分じゃね? 男の肉体の中では。だって、乳首じゃん、そこ。もろに男の性感帯だし」
私は自分の軽はずみが恥ずかしくなり電気に弾かれたように手をはがす。そこが性感帯だとは知らなかった。抗議は……、取り消しということで……。
「この前なんかオレの前でセーラー服はだけちゃったし」
「あ、あれはね、じ、事故だったのよ。自分で脱いだわけじゃないし。宮田さんが転びかけた私を私を支えようとしてそれで……」
むきになって言い返す。話す速度に舌がついてゆかず、噛みそうになった。
「確かにあれは事故だったかも知れない。でも、オレは今こう考えてるんだ。美浜さんが男子にモテるのって、エッチなオーラが引き寄せてるんじゃないのかなって」
「エ、エッチって……。オ、オーラって……」
私、やっぱり抗議します! エッチだなんて‥‥‥。美浜咲にエッチだなんてどの口が言ってるのかしら!断然抗議します!
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