母のまなざし、そして運命の人。

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「ただね……。勝つことばかりに固執して全体主義的になっている。本来楽しむべきはずのスポーツが恐怖になっている。最近、否定的な感情にコントロールされてスポーツやっているように思える。もっと自分に投資できる部活はないのかなって思うこともある。自分だけに与えられた資質とか才能があるような気がする。それを伸ばしたいんだ。いい感情を育てたい。いい感性をはぐくみたい。人間的に成長したいんだ。バレー部にいる限りそれは無理なんだ」  こんなこと話せるのは私が初めてだと言った。「キミになら何でも話せそうだ」と言って爽やかな笑顔を振りまいてくれる。高校生徒は思えない大人っぽい微笑だった。 「夏休みになったら、毎日練習だな……」  彼はまた夏の入道雲を見上げる。自由にあこがれる囚人のような目つきで。囚人でも、やはり彼の横顔は美しい。  整いすぎだ。  高貴すぎだ。  初めて会った時はこんなイケメンには見えなかったけど。やはり髪の毛が伸びたせいか。  私はジュンくんと一つの部屋でふたりきりで、こんなに近くでお話ししている。私になら「何でも話せそうだ」とまで言われた。さっきはオッパイまでもまれたじゃないか。それって、私が彼にとって特別な存在ってことよね。夢じゃなければいい。  念のために頬やショートパンツからむき出しの太腿をつねってみる。何度つねってもどこをつねっても痛い。ということは、これは現実なんだ。本当に現実なんだ! 信じていいんだ。私の目も耳も。 「で、さっきから気になってるんだけどさあ、それ自傷行為なの? 頬っぺた引っ張ったり、脚つねったり……。かわいさで評判の美浜さんって実は精神的に危ない人なのかなって、ちょっと……」  はっと見下ろすと、太腿のあちこちに爪の痕がついている。血が滲んでいるところもある。恥ずかしいくて顔が熱くなる。隠したい。でも隠すものがない。発作的に上体を前に倒し両腕で脚を抱く。男子の前でこんな姿勢を取ったことがない。自分でも彼に甘えているのだということがわかる。 「だって、ジュンくんのこと、ずっと探してたんだよ。なかなか見つからなくて。それが今こんな至近距離で話している。胸にも触ってもらって‥‥‥、も、揉んでもらった‥‥‥。それが夢みたいで……」  自分のくちびるから漏れるいやらしい言葉に自分の官能が高められる。ブラの下で左右の乳首がピリピリ敏感になっている。 「これ、本当に現実なのかなって‥‥‥。こんな幸せでいいのかなって‥‥‥。だから……」  恥ずかしくて顔を真っ赤にしてうつむきそうになる。でもジュンくんの表情が見たくて見たくて、視線だけはピッタリと彼の瞳に据えられている。私は上目遣いで彼にレーダー照射していることになる。これは湖南高校の男子から「強力な悩殺武器」として認定されているのだ。
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