セクシーランジェリー愛好会

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セクシーランジェリー愛好会

 夏休み中でもバイトを続けた。毎日朝8時から午後3時までだが、土曜日だけは鍼治療のため空けてもらった。店長は「えー、土曜日は会えないのか」と言って残念がった。どうせリップサービスだろうと高を括っていたら、バックヤードに戻った時、事務机越しにほんの瞬間のことではあったのだが、恨みがましい視線に刺された。まんざら社交辞令でもなかったことに気づいた。  ──この店長、こじらせたら面倒かも……。  ジュンくんも土曜日に治療を受けに来ると言っていた。私にとって土曜日は鍼の日というよりも、ジュンくんと会えるかもしれない日だ。なのにあれ以来一度も会ってない。  「結婚しよう」というのはやはり「仲よくしよう」程度のノリだったのだろうか。「結婚」などという人生最大のイベントにまで言及してしまったことを家に帰ってから後悔したのかも。それで避けられている? 毒のきいた冗談だったのかしら? 私は想像の中で、店長以上の恨みがましい視線をジュンくんに浴びせかける。  ──あなたはオママゴト感覚で私とカップルを演じてみただけだったの? たとえオママゴトだったとしても、私たち高校生だよ。本気で恋愛して、駆け落ちする人だっているんだよ! 本気で子供作っちゃう男女だっているの知らないの?   電話するという手段もあった。お互い番号を教えあったから。しかし、まだ一度もかかってきたためしがない。私からかけてもよかったが……、それをためらわせている現実がある。噂が本当なら、彼の正直な心を打ち明けられた途端に地面にたたきつけられるだろう。    ジュンくんには付き合っている女子がいる。──噂ではそういうことになっている。それを裏付ける現実が目撃されているから噂がのぼる。だが、女子高生の世界のやっかいなのは、噂からも現実が生まれるということだ。バレー部でも16HRでもそういう噂があるということは、湖南高校の女子の世界はすでにそういうことになっていると覚悟しておいた方がいい。
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