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「違う、って」
繰り返すが、望んだのは彼女もで。
それは間違いなくこういう事だったはずだと、ほぼ確実な自信があった。
それだけに、思考は混乱する一方だった。
だが、いくら考えてみたところで答えは導けそうにない。
ひょっとしたら怒らせてしまうかもと危惧する。
かと言って、分からないままでは八方塞がりのままだった。
ここは覚悟を決め、どうにか真実を訊き出す他ない。
名前を呼ぼうとし、実際に声を発したのは彼女が刹那早かった。
「ぎゅって、してほしい」
頬を紅潮させ、泉夏は小さく告げる。
「頭を撫でて欲しい。……それから、キスも」
赤く染まりながらも希求してくる泉夏を、秀王はすぐさま抱き寄せる。
「いつもしてる」
やっぱり『そう』だった。
全然違わなかった。
上限のない愛おしさが増すと共に、自在に自分を翻弄してくる彼女をちょっとだけー本当にほんの少しだけ、恨めしく思ってしまう。
受け入れない素振りを刹那でも見せた泉夏を、心底ほっとしながらも秀王は強く抱き締めた。
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