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8_美馬_ベッド1男2数合わない!
寝室は、リゾート風の天蓋付きクイーンサイズのベッドが一台、天井に飾りと実用を兼ねた羽根がゆるゆる回っていた。
時計をベッドヘッドに置くと、ベランダからの爽快な眺めに目を奪われた。
目の前に青い海が迫るように広がり、波音が聞こえてくるような心地よさだった。
ほぉ……いいところだな。
リンクで憤慨していた気持ちはやわらいだ。ここでスタッフとだけの共同生活なら、ダイエットも悪くないが。
早速、ストレスの元凶となる男が、他のスタッフを引き連れてやってきた。
スタッフたちはスーツケースを何台も運び込んできて、クローゼットに大量の衣類を収納していく。
ん?
美馬は面食らった。そのクローゼットには美馬の服を収納する予定だった。
「なに、その背広とか、見慣れない服とか」
「俺のですよ」
美馬は首を傾げた。
「ここ、オレの寝室だよな?」
「俺の寝室でもあります」
「は?」
美馬は部屋の中を改めて見た。
「ベッドは一つしかないぞ?」
「だから、契約書読めと言ったでしょうが」
「読んだよ!!」
「どうせ適当にでしょうが」
「そ、そんなちゃんと読む時間なんかなかっただろうが」
「車の移動中に読めましたけどね、先輩寝てました」
「だ、だって」
契約した直後から、分刻みで動きやがるとは思わんだろうが。
昨夜は妙に暑くて眠れなかったし。
いや、伊織が新社長として来ると聞いて、一睡もできなかったのだ。
こっちが必死に会わないように気をつけているのに、伊織は構わずにずかずかやってくる。それが許せなかったのだ。
争う二人の元に、伊織とは正反対の柔らかな目をした朝桐がやって来た。
「最終項、追記箇所をどうぞ」
と言って、iPadを差し出してきた。
「追記、ってことは後で追加したのか?」
「車の中でご説明しましたが」
「おい、寝ぼけてるのわかっててやっただろ」
「時間には限りがございますので」
へいへい、自分の会社と会長祖父さんの会社と掛け持ちだから、超絶多忙だと言うのだろう。
だが、自分が動かなくても回る会社でもあるのだろう。伊織は優雅なものだ。時折秘書に指示を出すだけだ。
渋々最終項を確認した。
他のフォントより小さなテキストで『追記事項』とある。
おい、詐欺だろっ!
使用する居住スペースについて、部屋はアシスタントと共同利用すること。
体調管理については、トレーナーの指示に基づくこと。
具体的には、体重、スリーサイズ、血圧、心電図などの計測、マッサージ、食事、睡眠時間などが管理される。
アシスタントに伊織惣一の名前があり、契約書には美馬の直筆サインがある。
「よしわかった。オレはリビングで寝る。ベッドまで同じにする必要なんてないだろうが!」
「トレーナーの指示に基づく生活をしてください」
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