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95_美馬_衣装を引き裂いて
玲花がマネージャーらしく対応した。
「取材のときはすみません」
アンディはにこにこと玲花の肩を叩き、美馬に言った。
「衣装、アッテナイよ」
「え! なんてこというの、アンディ」
玲花が素っ頓狂な声を上げたが、すぐに思い当たる顔でにっこりした。
「サイズのことね。袖を少し手直しするところなのよ」
「ナオス? だったらヌグのよいよ」
おかしな日本語になりながら、アンディは美馬の衣装の裾を掴んだ。めくり上げられて、美馬は焦った。
「ちょ、アンディ。脱いでもかわりがないんだよ」
「だいじょーぶ。OKだ。ストレッチチュールのアレある?」
アンディが玲花に訊ね、相田がスーツケースを覗き見る。
「これのことでしょうか? 練習で使うので用意していました。余分に持ってきたので未使用です」
アンダーウエア代わりに着る下着だった。
見た目はメッシュのシースルーで、衣装を作るときに肌の部分を覆うのに使う。
タイツのようにピタッと肌にフィットし、滑らかで、薄いのに温かい。
「それでOKよ」
「アンディ、明るい銀盤の上だと映えないわよ。それに姿が見づらいわ」
「いや、そうでもないかも」
美馬は言って、アンディの言うとおりに着替えた。
ショーなどの暗闇にカラー昭明が彩る会場なら、シンプルな衣装でも悪くないはずだ。
上はベージュの下着のようなラメ入り長袖丸首に、下は濃紫のボトムを合わせた。
照明の具合では、上半身が裸に見える。
「ボディ、スマートになったよ。イイね」
アンディは美馬を全身舐め回すように眺めた後、いきなり脱いであった衣装を引き裂いた。
玲花の悲鳴が轟き、相田がぎょっとし、美馬はもう諦めた。
アンディのセンスは抜群だ。任せた方がいいのだ。
アンディは裂いた布の柄部分にハサミを入れた。
腰に巻くスカーフを作ったらしい。
あれこれ弄られながら、腰に巻いたり首に巻いたりされた後、最終的に外された。
「ない方がいいです」
「シンプルすぎるわ」
相田は満足げだが、玲花が納得いかない顔だ。
「ヌードでもイイけどワイセツなるね。ユウトのボディはサイコー、エクセレント」
アンディはたぶん、知ってる日本語を言いたいだけだろう。
アンディと目が合うと、明るいエメラルドの瞳でウインクを返された。
そのウィンクに救われてきたのは一度や二度ではない。負けたな、この人には。
苦笑し、顔を上げたとたんだった。ドアの隙間から見えた顔に、美馬はぎくっと固まった。
「誰のハダカが最高なんです?」
目つきの悪い男がアンディを睨みつけている。
いつからいたのか。
アンディは首を竦めて、美馬に投げキッスを残して去ったのだった。
「別れましたよね?」
惣一が不機嫌指数を振り切らせている。
「はは」
美馬は笑いが抜けた。笑えないのだ。
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