僕の想いとそこへ来る彼女

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僕はある商業施設のフードコートで働いている。 今日も朝早くから、お客さまを迎えるための準備をしている。 『…あ、今日も来てる』 最近、フードコートのガラスの壁の向こう側にあるテラスのテーブルに 一人の女性がよく来ている。その人は黒縁のメガネをかけて、時々 携帯の画面を指でスライドしている。 本でも読んでいるのだろうか? フードコートで準備に追われながら、気がついたら僕は、 その人が “そこ” に来ているかどうかを確かめるようになっていた。 指でスライドしたり、ふと横を見たり、見上げたり。 来ているのを見ると、何だか嬉しくなった。 特に綺麗な人、というわけではないのだけれど… 今日も、いつものテーブルにやってきた。 いつものように、携帯の画面に視線を落とす。今日は ワイヤレスイヤホンで何かを聴きながら。 雨が降りそうな空だったので、巻かれていた屋根を伸ばした。 そうやって時が過ぎていったある日、準備の手を止めて テラスを見ていると、彼女と目が合った。 『やばっ…』 すぐに目を逸らし、テラスに背を向けて歩いていったけれど、 チラと振り返ると、彼女は何事もなかったように携帯を見ていた。 この時少し、切なさを感じてしまったのは…――― それからも、彼女はほぼ毎日、そこへやってきた。 今日もテーブルに着き、携帯の画面をスライドする。彼女を 少しの間見た後、僕は準備に戻った。 そんな僕らが結ばれたのは、それから二年後のことだ。                        ー終わりー                                                                  
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