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「……大変申し訳ございません。結婚してくださったのに」
新婚初夜の日、ベッドの上で謝られたことを、アメリーは今もよく覚えている。
蜂蜜色のさらさらとした髪。新緑の緑を嵌め込んだ瞳。美丈夫というのはこういう人のことを言うのだろうという人が、伯爵であるクルトであり、アメリーの結婚相手であった。
元々アメリーは別の貴族の元に嫁ぐ予定だったのだが、相手が流行り病で死んでしまい、結婚は頓挫。困り果てた先に舞い込んできた次の結婚の話は、難があるものであった。
「妻が亡くなり、一年経ちましたが。それでも彼女を忘れることができないんです……私と妻の間に子はできませんでしたため、世継ぎをつくるために再婚を勧められました……あなたも結婚相手が亡くなったばかりですのに、残酷なことを言い、申し訳ございません」
そう深々と頭を下げられ、アメリーは困り果ててしまった。
実のところ、アメリーは死んでしまった結婚相手がどういう人かすら知らない。悪い話を全く聞かない代わりにいい話も全く聞かない、釣書以外の情報をなにひとつ知らないまま結婚する予定だったので、いきなりクルトに謝罪をされたところで、される謂れがなかったのである。
おまけにクルトは亡くなった前妻を忘れられないと言っているので、むしろ世継ぎのために再婚を急かされた彼のほうが気の毒ではないかとさえ思ったのである。
「あまり謝らないでください。奥方が亡くなって一年では、傷が癒えないのは当たり前じゃないですか。それに私も困っていたところを拾ってくださって感謝しているんです」
そもそもアメリーの実家は、既に兄夫婦が家督を継いでいるため、彼女の結婚が頓挫してしまい、腫れもの扱いされ続けて家に居座るのは大変にいたたまれなかった。既に彼女の実家は彼女のものではなく、兄夫婦のものなのだから、妹にずっと家にいられてもふたりとも困ってしまうだろう。
だからこそ、結婚相手が前妻のことを忘れられないというのは、アメリーからしても都合がよかった。
「気が向いたらでかまいませんよ。本当にどうしようもなければ、養子を取るという方法もございますし」
前妻を忘れられない夫と、結婚前に結婚相手に先立たれてしまった妻。
白い結婚になってしまうのも当然なふたりが結婚して、二年経った。
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