昼の森

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 男は立ち上がろうとして膝を立てた。 「えっ!? 待って! 置いていかないで……」  とっさにそのような事を言ってしまった。 (置いていかれて困るのは、わたしの方だったぁぁぁ!)  起き上がるために手を付いた時、大きな石に触れた。 「何これ?」  石に何か刻まれている。男も気になったのか、近くに寄ってきた。  石にかかっている草をかき分けると、何かがグェと気持ち悪い声を立てて、エレノアの顔に向かって飛んできた。 「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」  驚いたエレノアは、近くで石を覗き込んでいた男性に抱きついてしまった。  ──! 「うぁぁぁ! ごめんなさい!」    もう少しで顔に触れるところだった……! 恥ずかしい!  だが、この男はエレノアを守るように、とっさにエレノアを自分の背に隠してくれた。 「とにかく行くぞ!」  男は立ち上がって、落ちていた剣を鞘にしまうと、また服に付いた土を払った。ここの土は湿っぽいので、服に付きやすい。 「えっ!?」 「こんな森の中、お前一人でどうするんだ? 元より、お前に用があったし、ルークの妹だしな。一時休戦だ」 「どこに行くの?」 「さあな。ほら、立て」  男が手を貸してくれた。 「あ、ありがとう」   「お前……そんな白い服を着ているのになぜ汚れていない? こんなに湿っぽい場所なのに」 「汚れないように魔法がかけてあるから」 「そんな魔法があるのか」 「わたしはできないけれど……そうだ!」  エレノアは、水魔法と風魔法を混ぜて男の服や体の汚れを取ってやった。それから自分の体にも同じ魔法をかけた。エレノアは、難しい魔法は使えないが、簡単な魔法を繊細に扱うことができた。 「おお! すごいな」  男が笑った。厳しそうな顔をしているが、笑うと意外と優しそうだった。
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