昼の森

6/7
前へ
/336ページ
次へ
「それにしても、ここはどこなのでしょう?」 「帝国の森ではないのは確かだ。こんなに豊かな森は帝国にはないからな」 「ヒューゴは帝国の人なのですね?」 「そうだ」  思ったとおり、彼はサラヴィオーク帝国の人だった。サラヴィオーク帝国、タイドス、聖ローフォード王国は、元をたどると同じ国だった。言葉が通じるのも、使っている文字が同じなのも、その名残だ。だが、帝国の人たちは魔法を使えない。    それに……。野蛮で粗暴だと聞いているが……。  エレノアは、そっとヒューゴの顔を覗いた。今も転ばないよう、律儀に手を引いてくれている。  ヒューゴに関してはそうではなさそうだ。 「ここは精霊が多いので、もしかしたらタイドスの森かもしれません。精霊と話ができたらいいのですが……」  精霊の気配を感じるが、話をする能力はエレノアにはない。もちろん、修行に励んでいれば話ができたはずだ。  だんだんの自分の情けなさに呆れてきて、気持ちが沈んできた。気持ちが沈んでくると消極的な事ばかり考えてしまう。 「はぁ……お腹が空きました」 「はぁぁぁあ!? お前なぁ……」  足を止めたヒューゴは、特大のため息を付いて、腰に付けているポーチから銀色の紙に包まれた四角くて薄い物を取り出した。 (キャンディ……?) 「食え」  エレノアがそれを受け取ると、包みを開けやすいように杖を預かってくれた。渡すなと言われたのにいとも簡単に渡してしまった……。  ヒューゴにもらった包みを開けると、ごげ茶色の四角い物が入っていた。四角い物から甘くて美味しそうなにおいがする。エレノアは警戒もせず、思わず口に入れた。
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加