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「エレノア! 起きろ!!」
「んんっ?……まだ眠いんだけど?」
誰かが体を揺すっている。
「早く起きろ!」
「眠い……」
「バカ! 早く起きろ!」
誰かが頬を軽く叩く。そのうち、片手で両頬を挟まれた。
「んんっ! やめてっ!」
目の前で緊迫した様子のヒューゴがエレノアを覗き込んでいる。
(近いっ……!)
「エレノア、あれは何か知ってるか?」
たき火の向こう、木々の間に黒いもやがあった。それはただのもやではなく、意思を持って動いており、じわじわとこちらに寄ってきている。
(あれは……)
エレノアはその正体を知っている。
「瘴気!」
「ミアズマ!?」
エレノアはうなずいた。
兄やアレンのミアズマ退治に同行したことがある。だから知っている。間違いない。
ミアズマは悪意のある精霊の集まりとされ、穢れを撒き散らし、生きる物に害を与える。もやに取り込まれたら最後、体が跡形もなく分解されてしまう。
さらに、何体かかたまって形を成したミアズマにいたっては、生きる物を直接的に殺めたりもする。
とにかくあれは厄介な存在だった。
(それがなぜここに!? しかも、形を成したミアズマも複数いる)
ミアズマは地下のローフォードで生まれる。だからこそ、ローフォードの軍は毎日退治に繰り出し、地上にあるタイドスを守っていた。
「やはりここはタイドス……?」
「どうしたらいい? 俺たちを狙っているようだが!?」
「もやなら光で追い払えますが、形を成しているものは斬らないとダメです!」
ヒューゴが剣を抜いた。
「普通の剣では無理なんです!」
光魔法をかけた剣でなければ効かない。まずは、ヒューゴの剣に魔法をかけなければ。
いや、その前にもやを追い払わないと。斬り込んだヒューゴが穢れに触れる。
それができるのは今、自分だけだ。
「──光よ!」
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