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高く上げたエレノアの手の平に光が集まる。
だが、光が弱くミアズマのもやまで届かない。
(そんな……)
「ごめんなさい……。ヒューゴ……」
エレノアはうなだれて小さくつぶやいた。
今のエレノアにはあれを倒す力がない。魔法が使える者が自分しかいない以上、もうどうすることもできない。
(あいつらにやられるんだ……。怖い……!)
すぐそこに迫る恐怖に手と足が震えた。
「バカ! すぐに諦めるな! 何かできることはないのか!? 考えろ! 恐怖に耐えて考えろ!」
大声で叫んだヒューゴは、震えるエレノアの手を強く握った。手に込められた力に驚いたエレノアは、ビクッと体を震わせた。
「できること……? わたしの力では到底敵わない……。力がなくて……」
エレノアは力なくうなだれた。
「お前、杖はどうした?! あれは使わないのか!?」
「杖?」
顔を上げてヒューゴを見る。彼は気迫のある真剣な目でじっとエレノアをみつめていた。
「ここに来たとき使ってたろうが! あれは何かの武器ではないのか!?」
「そうだ! 杖!」
エレノアは寝床にしていた葉っぱを掻き分け、杖を手にとった。いつも杖など使わないから忘れていた。
もしかしたら、ここに来たときのように、杖が魔法の威力を増してくれるかも知れない。
「大丈夫か!? やれるなら落ちついてやれ!」
ヒューゴの手が、再びエレノアの震える手を包んだ。
(ヒューゴは諦めてなんかいない。今も必死に戦っている!)
エレノアはヒューゴに向かってうなずいた。巻き込んでしまったこの人を死なせるわけにはいかない。
(お願い。助けて! わたしを助けて! ヒューゴを助けて!)
──「光よ!」
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