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タガンの街の上空で、バッカスは落ちてくる巨大な岩を蹴散らしていた。
にわかに、どこかでドロドロとおぞましい音がする。それはじゅうじゅうと大地を焼いていく。
(まさか──!)
バッカスは、人間の青年を見やった。青年は懸命に声をかけて、タガンの民を頑丈な建物へ避難をさせている。
青年自身も怪我を負いながら、子どもを抱いて走っている。
魔法使いの青年も同じだ。
──タイドスは見捨てられたわけではなかった。
「すまない。民を頼む!」
バッカスは、青年たちに未来を託し、その場を後にした。急がなければ。地形を考えれば、あそこが危ない──!
*
思ったとおり、マグマはあのオアシスの町に流れ込んでいた。あの、愛おしい記憶と忌々しい記憶が混在する町。
エレノアが上空に結界を張ったようだが、地を這うマグマまでは止められなかったようだ。
逃げ惑う人々の中に。アメリアに似た雰囲気の巫女がいた。
(アメリア……?)
彼女がバッカスに気付いた。
「竜の王様……?」
(ああ、やはり彼女は……)
バッカスは人の姿となって、巫女に近付き、不要になった婚約指輪を渡した。
「これはお前のご先祖様にあげたのものだ。できれば持っていてほしい。そして覚えていてほしい。私の悲しみとお前に会えた喜びを」
背後でまた爆発音がした。町中に悲鳴があがる。
急がなければ──!
バッカスは竜となり、流れるマグマに立ち塞がった──。
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