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サイラスとバッカス
クラウスは壁が崩れた跡に立ち、オンディーン湖をぼんやりと眺めていた。
壁は小石となってそのほとんどが消えたが、一部は瓦礫となって残っていた。
瓦礫からしたたり落ちる水は小さな虹をつくり、枯れていたオンディーン湖に少しずつ水が流れ始めている。
(陛下……。戦いは終わりましたよ)
これでディアーク河も本来の姿を取り戻し、帝国もその恩恵を得る事ができるだろう。
ふと、どこか遠いところで大きな咆哮が聞こえ、大地が震えた。その振動で瓦礫がパラパラと崩れる。
(これは?)
崩れた瓦礫の隙間からわずかに金色に光るものが見えた。気になって掘ってみると、出てきたのはシンプルな装飾の杖だった。
その杖を手にした途端、クラウスに衝撃が走った。
走馬灯のように誰かの人生が流れてくる。
白いマントをまとった誰か──いや、これはかつての自分。
──かつての自分は魔法を使っていた。
そして親友の願いを聞き入れ、高い壁をつくり、魔法使いの王として君臨していた。
その後はサイラスだったことを忘れ、幾度も転生を繰り返した。転生先はこの世界でないこともあった。
魔法が使えない──いや、かつては使える者がいたかも知れない、人間がつくる高度に発展した世界。世界中どこにでも行けて、はるか空の向こうにまで住んでいる。
その世界に転生したあとは、必ずといってこちらの世界に転生した。あちらの世界に生きていた記憶を持って──。
その度に、こちらの世界にあちらの世界の知識を伝えてきた。
──小さな島国を焦土と化し、世界を脅かす恐ろしい兵器でさえ。
そうしてあちらの世界でもこちらの世界でも五百年が経った……。
クラウス、いや、サイラスは笑った。
(私もやっと終われる……。クラウスで最後だ)
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