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◇◇◇
誰かが名前を呼ぶ。
(誰だっけ? この声、誰だっけ?)
顔を見て確かめたかったのだが、目が開かなかった。
*
それからエレノアは、眠って目覚めてを繰り返した。
だが、いつ目覚めても意識がぼんやりとしていて、目が開かなかった。そのため、視覚は機能せず、わずかに光を感じるのみだった。
体は動かず、声も出ない。
だけど、音だけは聞こえていた。優しい声は聞こえていた。
毎日、朝と夜に聞こえる優しい声。彼が来てくれる事がエレノアの唯一の楽しみだった。
彼の大な手がエレノアを包み込み、優しい口づけが降ってくる。
その度にエレノアの心は穏やかで幸せな気持ちに包まれた。
(この気持ち、何だっけ……。前にもあったような……)
*
ある朝、目覚めるとその人が泣いていた。
何か辛いことでもあったのだろうか。
「エレノア……。どうか、どうか、目を開けて……。愛している。ずっと愛している」
──愛している。
かつて何度も聞いた。とろけるような甘い言葉。
(そうだ……。そうだ……!)
その人に会いたかった。ずっと会いたかった。会いたくてたまらなかった。
わたしの愛する人。
────フィンレー!!!!!
ぼんやりしていた意識がだんだんとはっきりしてきた。
エレノアは目を開けようとしたが、やっぱり開かなかった。声を出そうとしたが、出なかった。唇さえ動かない。今度は手を動かそうとしたが、少しも動かない。
(何で? 何で!?)
フィンレーは自分の名前を呼んで泣いている。
彼に触れたい。抱きしめてあげたい。わたしも愛していると言いたい。
(何で? 何でこの体は動かないの──!?)
目の前に大好きな人がいるのに──!
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