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「それがよく分からんのだよ私も。いつも考えていたことがあってな、それがふと過ったんだ」
武下は75歳でいいと一瞬感じたのは事実である。
「過ったって何が過ったんですか?」
若い香村が訊いた。
「君は幾つになったのかね?」
「来年で40になりますが」
「40か、するとあと35年は生きられるな」
「生きていればの話ですよ。歩道を歩いていても轢き殺される時代ですからね、いつ死んでもおかしくありませんよ」
香村が高笑いするのを武下とマイク鈴木は羨ましそうに見ていた。
「マイクさんは幾つかね?」
「私は残り二年です、二年なんてあっと言う間だな」
「そんなことはない、残り二年を有意義に過ごせるじゃないか。女遊びもいいし、ゴルフ三昧、釣り三昧、博打三昧に美食三昧、羨ましい」
武下は既に法案の年齢を過ぎている。残りの命を自由に使えるマイク鈴木を妬んだ。
「それでご用は何です。もう可決したんだからどうにもなりませんよ」
マイク鈴木は武下を早く追い返したい。
「私のようにこの時点で75を過ぎている人はどうすればいい?」
武下はストレートに訊いた。
「命乞いですか?侍の武下さんらしくない」
命が惜しくなると数々の言動の辻褄が合わなくなってくる。
「そう言う言い方は武下先生に失礼じゃありませんか、あなたも助けていただいたことがあるでしょ」
香村がマイク鈴木に言い寄った。
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